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家庭裁判所の判断を経ないで,預貯金の払戻しを認める方策(新民法909条の2)

 改正相続法では、相続された預貯金債権について生活費や葬儀費用の支払・相続債務の弁済などの資金需要に対応できるよう遺産分割前にも払戻しが受けられる制度が創設されています。仮払い制度等の創設・要件明確化については、大きく分けると「家事事件手続法の保全処分の要件を緩和する方策」と「家庭裁判所の判断を経ないで預貯金の払戻しを認める方策」に分かれます。

 

 このうち後者については新民法909条の2において以下のとおり定められています。

 

【新民法】

(遺産の分割前における預貯金債権の行使)
第909条の2

 各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。

 

 平成28年12月19日最高裁大法廷決定は、相続された預貯金債権は遺産分割の対象財産に含まれることとなり共同相続人による単独での払戻しができないとしています。しかし、生活費や葬儀費用の支払、相続債務の弁済などの資金需要がある場合にも遺産分割が終了するまでの間は被相続人の預金の払戻しができないとすると様々な不都合が生じる場合もあります。そこで改正相続法では、家事事件手続法の改正により仮払いの要件を緩和するとともに、家庭裁判所の判断によらずに遺産となる預貯金債権の3分の1について、さらにその法定相続分に限って単独で払戻しができるとしたものです(法務省「相続された預貯金債権の仮払い制度について」参照)。

 

 なお、政令で定める一金融機関あたりの上限金額は150万円とされています(民法第九百九条の二に規定する法務省令で定める額を定める省令)。

 

 また施行は公布日(平成30年7月13日)から1年以内とされています。