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遺留分の金銭債権化(新民法1046条)

 

旧民法1031条は遺留分減殺請求権を定めていますが、その法的性質については遺留分減殺請求権の行使によって当然に物権的効果が生ずると解するのが判例・通説でした。

 

 

 

 最判昭和51年8月30日 は「・・・遺留分権利者の減殺請求により贈与又は遺贈は遺留分を侵害する限度において失効し、受贈者又は受遺者が取得した権利は右の限度で当然に減殺請求をした遺留分権利者に帰属するものと解するのが相当であって…侵害された遺留分の回復方法としては贈与又は遺贈の目的物を返還すべきものである・・・」と判示しています。

 

 

 

もっとも、減殺請求の結果、遺贈又は贈与の目的財産は受遺者又は受贈者と遺留分権利者との「共有」になることが多くなり、円滑な事業承継を困難にするとか、共有関係の解消をめぐって新たな紛争を生じさせることになるなどの指摘もなされてきました。現行の遺留分制度は、遺留分権利者の生活保障や遺産の形成に貢献した遺留分権利者の潜在的持分の清算等を目的とする制度として位置づけられています。その目的を達成するためには、必ずしも物権的効果まで認める必要性はなく、遺留分権利者に遺留分侵害額に相当する価値を返還させることで十分ではないかと考えられます。

 

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そこで、改正法では、遺留分侵害額請求権は,現行法の遺留分減殺請求権と同様に形成権であることを前提としつつ、遺留分減殺請求権から生ずる権利を「遺留分侵害額請求権」として金銭債権化することとしました(新民法1046条)。

 

 

【新民法】 

 

(遺留分侵害額の請求)

 

 第1046条

 

 1.遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

 

 2.遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

 

 一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額

 

 二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

 

 三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 

 

 

この改正により、遺留分減殺請求権の行使により共有関係が当然に生ずることが回避されるとともに、遺贈や贈与の目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重することができることとなります(法務省ホームページ「遺留分制度の見直し」参照)。