【民事訴訟法(IT化関係)部会】第3回会議(令和2年9月11日開催):口頭弁論・争点整理手続等・特別な訴訟手続について

 法務省法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会HP令和2年9月11日開催の第3回会議議題・議事要旨・資料等が掲載されました。第3回部会では

・ウェブ会議等を利用した口頭弁論の期日の手続に関する規律
・オンラインによる準備書面の提出等に関する規律
・口頭弁論の公開に関する規律
・弁論準備手続,書面による準備手続及び準備的口頭弁論に関する規律
・進行協議に関する規律
・専門委員制度に関する規律
・新たな訴訟手続の特則の創設等

が審議されています。

【資料】

・部会資料5 口頭弁論,争点整理手続等,特別な訴訟手続,証人尋問等
参考資料9 民事訴訟手続のIT化に向けた取組~ウェブ会議等のITツールを活用した争点整理の運用について~
・会議用資料 法制審議会民事訴訟法(IT化関係)部会委員等名簿

 

【コメント】

1.ウェブ会議等を利用した口頭弁論の期日の手続

 現行法では,第1回口頭弁論期日のみ,当事者の一方の欠席と陳述擬制についての規律がなされ(現行民訴法158条), その後の口頭弁論期日では現実の出頭をしなければ,陳述等手続に関与することはできません。これをウェブ会議等を利用した口頭弁論期日においては当事者の一方又は双方が現実に出頭しなくとも,手続に関与することができるとすることが提案されています。オンラインによる電子準備書面の提出も認めることも検討されています。

2.口頭弁論期日の公開

 部会資料では,口頭弁論の公開は,現実の法廷において行うこととし,インターネット中継等によって行うことを許容したり禁止したりする規律は設けないとの提案がなされています。行政訴訟や原発をめぐる裁判など社会的耳目を集める事件については,国民の知る権利の観点からも公開がより進められてよいとも思われますが,他方,私人間の一般的な民事事件についてまで,インターネット等で不特定多数の者に広く公開することについてはプライバシーなどの問題も生じるところです。

3.争点整理手続等

 現行法では,弁論準備手続及び準備的口頭弁論(及び進行協議)については当事者の一方は現実に出頭をすることが求められますが,IT化された民事訴訟では前述のとおり口頭弁論についても当事者の双方の現実の出頭も求められませんので,弁論準備手続等についても当事者の一方の現実の出頭の要件は廃止されることが提案されています。また手続選択を柔軟にするために「遠隔地等」要件も見直され,裁判所が「相当と認めるとき」とすることが提案されています。もっとも,当事者は現実に出頭をし,裁判官や相手方と対面した緊張感のある状態で主張立証をすることで,審理が充実するとして,IT化された民事訴訟のもとでも,裁判所への出頭を原則とすべき,との考え方は弁護士の中には根強くあると思います。この場合に「相当と認めるとき」との要件は広すぎるのではないかとの懸念もあるところです。

 なお,書面による準備手続については,現行法でも当事者の一方の出頭は要件となっておりません。

4.特別な訴訟手続について

 裁判の迅速の観点から,例えば審理を6か月以内に終結する,主張書面は3通までとする,証拠は即時に取り調べることができるものに限定をする,反訴を禁止するなどの「特別な訴訟手続」を導入することについて検討事項とされております。

 しかしながら,裁判は十分に主張立証を尽くし,裁判官に公正かつ適正な判断を求める必要があります。また,消費者訴訟などでは証拠は事業者に偏在しており,文書提出命令などを含めて,訴訟手続の中で事業者に証拠を開示させていく作業が必要になります。また,勧誘を行った営業担当者などを証人申請し,法廷で証拠資料を示しながら,厳しく事実認識を問うていく作業も必要となります。立法過程や過去の裁判例・文献など法的解釈についても準備書面を重ね,粘り強く裁判官の理解を得る作業が必要になります。手持ち証拠も乏しい状態で,期間も主張回数も証拠も制限された訴訟では,消費者・労働者や各種事件事故被害者などの権利が実現できないおそれがあります。裁判は中味がなんであれ迅速であればよいというものではありません。

  さらに「管轄合意」と同様に、契約条項あるいは約款に紛争が生じた場合は「特別な訴訟手続きによる」との合意が事前に盛り込まれる懸念もあります。「特別な訴訟手続」をめぐる議論については今後も注意が必要です。

 日弁連は2020年6月18日に「民事裁判手続等IT化研究会報告書-民事裁判手続のIT化の実現に向けて-」に対する意見書」を公表しております。この中で,日弁連は「研究会報告書が提案する特別な訴訟手続(以下「本件特別手続」という。)には賛成できない。」との意見を公表しています(15頁)。特別な訴訟手続は「準備書面の通数制限,証拠方法の制限,反訴の制限などは,公正かつ適正な裁判を受ける権利を保障する憲法第32条に抵触しないかが問題となる上,ラフジャスティスを招く危険性を拭えず,民事訴訟制度に対する信頼を損ねかねない」などと指摘しています。