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JR福知山線脱線事故17年:事故調査・組織的過失・組織罰…

 JR福知山線脱線事故から17年となりました。その後も、福島原発事故や、先日発生し、今なお救助捜索活動が行われている知床観光船事故も含めて、企業活動に伴う大規模事故は残念ながら後を絶ちません。

 突然の事件事故に遭遇した被害者遺族は、大切な肉親を喪った原因を解明し、責任の所在を明らかにするとともに、二度と同じような事故による犠牲が生じないことを願うようになります。尊い犠牲を無駄にしないためにも、被害者遺族の心の回復のためにも、再発防止のためにも徹底した事故原因の解明が必要になります。

 当職も被害者遺族弁護団の一員として活動した平成13年7月21日発生の明石歩道橋事故においては、明石市に事故調査委員会が設置され、第32回明石市民夏まつりにおける花火大会事故調査報告書

が公表されました。しかし、事故調査委員会には強制調査の権限がないため、雑踏警備について一次的全面的に責任を負うはずの警察(兵庫県警本部・明石署)の組織対応については解明が不十分でした。その後、遺族は兵庫県(警察)・明石市(主催者)・警備会社に対して民事訴訟を提起し、神戸地判平成17年6月28日は、三者の事故当日のみならず警備計画段階からの過失責任を認め、損害賠償を命じています。他方、刑事事件について神戸地検は事故当日の現場担当者の過失責任のみを問うことに固執し、雑踏警備の最高責任者である署長らの責任、あるいは計画段階の過失責任を問うことはありませんでした。これに対し、神戸検察審査会は改正検察審査会法のもとでの強制起訴第1号事件として明石署副署長を強制起訴しましたが(この時すでに明石署長は他界されていました)、最判平成28年7月12日は検察官役指定弁護士の上告を棄却し、実質無罪である免訴が確定しました。検察が早期に起訴をしていれば、公訴時効の問題にならずに、過失責任について判断がなされたはずであるし、原審大阪高判平成26年4月23日は明石署長の責任は事実上肯定する判断をしていたことからも、検察の歩道橋事故への対応には極めて疑問があります。その後、JR福知山線脱線事故でもJR西日本の経営責任者に対して強制起訴がなされましたが無罪となりました。福島原発事故について東電経営者三名の強制起訴事件も一審は無罪となり、現在控訴審が係属中です。警察・検察が不起訴とする方針で捜査がなされ、不起訴の方向での証拠が集められた条件下で、検察官役指定弁護人が公判維持することはそもそも困難な面がありますが、他方で、公判廷で事件の真相が解明される役割は極めて重要です(不起訴記録はお蔵入りとなります)。

 現在の刑事司法では、個人の過失責任しか問うことができません。その結果、「トカゲのしっぽ切り」のような捜査で事件事故の原因が解明されないままとなる可能性があります。企業・組織が引き起こす大規模事故では組織責任者を含めて様々な関係者が複合的に過失を積み重ねた結果、大きな事故を引き起こしている可能性があります。これを徹底的に解明するためには、独立した事故調査委員会に強制調査権限を与える、企業自体に刑事罰を課す組織罰を導入するなどが必要となります。事故調査のプレイヤーを刑事司法・刑事捜査機関を中心として考えるのかという問題もあり得ると思います。

 

【参考】

 ・組織罰を実現する会

 ・【ラジオ関西】《JR福知山線脱線事故17年》加害企業の「組織罰」

 ・【NHK】2018年10月26日「『組織罰』求める声は届くか」(ここに注目!)

 ・【NHK】東電刑事裁判「原発事故の真相は」