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【最高裁長官談話】憲法記念日を迎えるに当たって

 最高裁HPに大谷最高裁長官の談話が掲載されています。以下,全文貼り付けます。

 

 令和4年5月

憲法記念日を迎えるに当たって

最高裁判所長官 大谷直人

 日本国憲法の施行から75周年の記念日を迎えました。また、本年は、沖縄の本土復帰が実現してから50周年を迎えます。この節目の年に当たり、私たち司法に携わる者は、時代の変化に的確に対応し、国民により一層信頼される司法を目指して不断の努力を重ねる決意を新たにしたいと思います。

 新型コロナウイルス感染症の影響により、私たちの日常が大きく変化してから2年以上が経ちます。終息に至るまでにはなお一定の期間を要するようにも思われますが、多くの関係者の尽力と国民の協力により、少しずつ日常を取り戻しつつあるように思います。裁判所は、専門的知見に基づく感染防止対策の徹底に努めることで、昨年の2回の緊急事態宣言下においても規模を縮小することなく業務を継続することができました。引き続き、今後の感染状況の変化や新たな知見の蓄積等を踏まえて感染防止策の適時の見直しを行いながら、地域の実情に応じたきめ細かな訴訟運営上の配慮や運用改善の工夫を積み重ねていきたいと考えています。改めて国民の皆様の御協力をお願いいたします。

 社会の各分野で進むデジタル化の流れは、今般の感染症の拡大を一つの契機として加速しており、裁判所においても、各種裁判手続等のデジタル化の取組を進めています。先行している民事訴訟手続では、ウェブ会議等を利用した争点整理が定着しつつあり、本年4月から一部の裁判所で準備書面や書証の写し等を電子的方法により提出する新たなシステムの運用が開始されました。訴えの提起から判決までの手続をオンライン化するため必要な法整備も現在国会で審議されています。また、家庭裁判所では、昨年12月からウェブ会議による家事調停手続の試行が開始されていますし、刑事の分野においても、本年3月に刑事手続における捜査・公判のデジタル化方策の検討の結果が取りまとめられました。デジタル化は、今後の裁判の姿、裁判所の姿を全体として大きく変える契機となるものであり、私たちは、国民の生活様式や利用者のニーズに即し、これからのデジタル社会における裁判所の在り方を見通しつつ、この課題に取り組んでいかなければならないと考えています。

 裁判員制度はおおむね順調に運営されており、感染症が拡大する中にあっても裁判員裁判が大きく滞ることはありませんでした。改めて国民の皆様の理解と協力に敬意を表したいと思います。来年からは18歳、19歳の世代が裁判員に加わることになります。裁判所としては、若い世代にも積極的に参加してもらうため、法教育の実情を踏まえた情報発信に努めることのほか、その声を制度運営の改善に生かしていきたいと考えています。幅広い裁判員の率直な意見をしっかりと受け止め、あるべき審理運営の姿を意識しつつ、不断の運用の見直しに真摯に取り組み、制度を社会に根付かせていく必要があると考えています。

 身近な紛争解決手段としてその役割を果たしてきた調停制度は、本年100周年を迎えます。調停制度は、その時々の社会経済情勢の中で、制度改正や運用上の工夫を重ねて変化しながら、1世紀の長きにわたり、裁判手続と隣接した法的紛争解決システムの大きな柱として機能し続けてきました。この制度が、これからの時代の利用者のニーズを的確に捉えた納得性の高い紛争解決を実現することで、国民からの期待に応え高い信頼を得るものとなるよう、今後も運用改善に努めてまいります。

 裁判所は、今日に至るまで、日本国憲法によって託された司法権を適切に行使し、社会に生起する紛争の解決を通じて、経済の発展や社会の安定に寄与するよう努めてきました。我が国における社会の構造的な変化は加速していますし、更に世界に目を向ければ、これまでの国際秩序を揺るがすような事態も生じており、我が国を取り巻く国際環境がどのように変化するか予測し難い状況となってきています。このような大きな変動の時期にあっても、裁判所が果たすべき役割は、国民の権利を救済し、適正迅速な法的紛争解決を通じて「法の支配」を実現し、社会の安定に寄与することにあります。

 憲法記念日を迎えるに当たり、「法の支配」の理念の重要性と裁判所に期待される役割の重さに思いを致し、新たな時代においても司法がその役割を十全に果たしていくために力を尽くす所存です。