· 

刑法等の一部を改正する法律案に対する参議院附帯決議

侮辱罪の厳罰化など令和4年刑法等改正法の参議院附帯決議は下記のとおりです。

 

刑法等の一部を改正する法律案に対する附帯決議 令和四年六月十日 参議院法務委員会

 

政府は、本法の施行に当たり、次の事項について格段の配慮をすべきである。

 

一 インターネット上の誹謗 ひぼう 中傷による被害が多数発生し人権を著しく侵害する等の問題  が深刻化している 現状を踏まえ、インターネット上の誹謗中傷の防止及び誹謗中傷による被害が生じた場合の迅速かつ確実 な救済を図るための施策を総合的に推進すること。

二 前項の施策を推進するに当たっては、インターネット上の匿名での誹謗中傷による侮辱罪に関し、被疑者の特定に係る被害者の負担を軽減すること。

三 第一項の施策を推進するに当たって、発信者情報開示請求制度に関し、迅速的確な被害者救済とともに、民主主義の根幹である表現の自由、通信の秘密が確保されるよう特に留意の上、開示請求の要件や開示さ れる情報の範囲など、プロバイダ責任制限法の見直しも含めた検討を同法の施行状況を見極めつつ行うこと。

四 第一項の施策を推進するに当たって、損害賠償命令制度の対象事件を拡大するなど簡易で迅速な損害賠償の実現に資する制度のほか、インターネット上の誹謗中傷に係る損害賠償の在り方や裁判費用の支援など、適正な被害回復のための方策を速やかに検討し、その結果に基づいて必要な措置を講ずること。

五 侮辱罪の法定刑を引き上げても処罰範囲に変更はないこと及び侮辱罪による現行犯逮捕に係る制限が法定刑の引上げにより外れたとしても当該現行犯逮捕が可能な場合は実際上は想定されないとする政府統一見解を捜査機関に周知徹底すること。

六 侮辱罪による私人逮捕は逮捕罪等の刑事責任が問われることや民事上の不法行為責任を負うことがある ことを前項の政府統一見解と合わせて広く国民に周知・広報すること。

七 公共の利害に関する事項に係る意見・論評は表現の自由の根幹を構成するものであることを踏まえ、本 法の附則に基づく三年経過後の検討に当たっては、侮辱罪への厳正な対処が図られることにより自由な表現活動が妨げられることのないよう、当該罪に係る公共の利害に関する場合の特例の創設についても検討 すること。

八 拘禁刑が創設されることにより刑務作業が減る場合があることも踏まえ、受刑者の社会復帰の原資とな る作業報奨金の水準について検討すること。

九 本法の施行により、犯罪をした者の特性に応じた処遇を充実させて再犯防止を図るため、拘禁刑の導入、刑の執行猶予制度の拡充、更生緊急保護の充実化等が行われることを踏まえ、その実務に携わる矯正施設 及び更生保護官署の人的・物的体制の充実強化を図るとともに、施設内処遇と社会内処遇の緊密な連携を 強化すること。

十 犯罪をした者に対する処遇の充実及び保護司の負担軽減を図るため、関係機関等のデータ連携も強化しつつ、矯正行政及び保護司活動を含む更生保護行政のデジタル化の推進・AI技術の活用により、矯正施 設及び更生保護官署における対象者のデータの収集・分析、効果的な処遇等の実施及びその効果検証等の 施策を推進すること。

十一 拘禁刑の創設を踏まえ、刑事施設における処遇調査を充実させるとともに、必要に応じて少年鑑別所 の調査機能を有効活用することで、個々の受刑者の特性をこれまで以上に的確に把握し、その特性に応じ た柔軟な処遇を推進すること。

十二 満期釈放者等の再犯防止を図る上で更生保護施設が果たす役割が重要であることを踏まえ、更生保護 施設における充実したプログラムの実施や施設退所者等への訪問支援事業の全国展開、老朽化する施設の 整備の促進等を図るための十分な財政的措置を講ずること。

十三 犯罪をした者の円滑な社会復帰を図るためには、刑事司法手続終了後を含めた切れ目のない息の長い 支援を行うことが不可欠であることに鑑み、地方公共団体による地方再犯防止推進計画の策定や保護司活動の支援を含めた再犯防止のための施策が一層推進されるよう、地方公共団体に対する財政的支援を行う とともに、更生保護地域連携拠点事業の充実を図ること。 右決議する。