· 

【金融庁】資産運用業高度化プログレスレポート2022と仕組債についての記述(備忘メモ)

 金融庁は令和4年5月27日に「資産運用業高度化プログレスレポート2022」を公表しています。

 金融庁が、資産運用会社等とのモニタリングや対話を通じて把握した資産運用の高度化に向けた取組みの進捗状況、それらを踏まえて更なる取組みが必要と考えられる事項や資産運用ビジネス全体の課題及び当庁の対応について取りまとめたものとされています。

 (別添)「資産運用業高度化プログレスレポート2022」(PDF:3.93MB)

 (別添)「資産運用業高度化プログレスレポート2022(概要版)」(PDF:2.37MB)

 トラブルの多い「仕組債」については42頁以下に下記の記述があります【図は省略】。

 

 仕組債のうち一定の販売規模を占める EB 債(他社株転換可能債)について、複数の販売会社の協力を得 て、過去に個人向けに販売された EB 債のデータを入手して分析を行った。具体的には、2019 年 4 月に個人向 けに販売された EB 債 856 本(日本円換算の発行額合計は約 674 億円。海外株式参照も含み、全て私募 もしくは私売出し。)をサンプルとし、商品条件や、2021 年 12 月末までの償還実績、当該時点での時価情報 などを調査した。 EB 債では、一定率以上(-20%~-30%等)の株価の下落が発生すると「ノックイン」と呼ばれる仕組みによ り償還金額が株価に連動することとなる。そのため、株価の大幅下落時には大きな損失が発生しやすい。一方、 株価の上昇時には「ノックアウト」という仕組みによって額面で償還されてしまうため、アップサイドのリターンは限定さ れる。

 このような EB 債のノックインとノックアウトの仕組みは、株式のプットオプションの売りポジションに類似しており、し ばしば、「EB 債には、実質的にプットオプションの売りが組み込まれている。」と指摘される。株式のプットオプションを 売ると、そのオプションが参照する株価の下落に伴って損失が非常に大きくなる。下記の図表 3-12 にあるように、 EB 債でも同様に、株価の下落に伴って損失が拡大する一方で、上記の通り株価上昇時には額面で償還されて しまうためリターンは限定されている。プロの機関投資家の間でも、株式のプットオプションの売りを引き受ける投資家は少なく、リスクの高い取引として認識されている。EB 債の購入者はこのように、個人投資家が一般的な債券の リスクとして抱くイメージとは大きく異なるリスクを引き受けることとなる。

 実際に、今回調査したサンプルの中には、僅か 3 か月で元本の 8 割を毀損した例もあり、リターンの分布を見る と、図表 3-13 のように、頻度は少ないものの損失率の裾野が広いことがわかる。リスク(分布の標準偏差)は相応に高く、いわゆるテールリスクと呼ばれる性質を有している。

 こうした EB 債のリターン実績を他の資産クラスの長期的なリスク・リターン比と比べると、図表 3-14 のように、EB 債のリターンはリスクに見合うほど高いとは言えない。商品特性上、株式との相関が強い一方で、リスク・リターン比 は劣後するため、株式に代えて EB 債を購入する意義はほとんどないと考えられる。EB 債については、「株式の値 上がり益を放棄する代わり、クーポンは高い。」との営業話法が用いられることが多いが、放棄した値上がり益の価 値に見合うほどの高いクーポンが設定されているとは言えない。

 また、EB 債については、元々設定された予定満期が 1 年以内の短期の商品が半数以上を占めるだけでなく、 早期償還が頻繁に発生する仕組みとなっていることが一般的である。今回のサンプルのうち、既に満期を迎えた予 定満期 2.5 年以下の EB 債についてみると、満期まで継続したのは 2 割以下。予定満期が 2.5 年以下の EB 債の実現満期は平均で 0.62 年であった。

 EB 債の実質コスト(元本と公正価値の差)は、当庁による業界ヒアリングや公開情報からの推計に基づくと、 投資元本に対して平均して 5~6%程度と推定されるが、実現満期が 0.6 年程度と短いため、実質コストを年率 換算すると 8~10%程度に達すると考えられる。こうした高い実質コストが、図表 3-14 のリスク・リターン比の悪さ につながっていると考えられる。取扱金融機関(販売会社もしくは組成会社)側から見ると短期間で収益を上げ やすいため、償還済み顧客に繰り返し販売する回転売買類似の行動に対する誘因が働きやすい商品性となって いる。 EB 債に代表される仕組債の上記のような商品性については、仕組債を取り扱う金融機関であれば当然に認 識しているはずである。しかし、本レポートと同様の分析を金融機関側が自発的に行って一般の投資家に伝えるよ うな取組みはこれまでなされてなかったのではないか。投資信託などの多くの商品では、重要情報シートなどにリスク、 リターンやコストの実績値などが掲載されている。仕組債も、年間販売額が少なくとも 4 兆円以上40に達する規模 になっていることを踏まえれば、取扱金融機関各社や業界団体が自主的にデータを集計して定期的に公表すると ともに、重要情報シートで組成・販売それぞれの実質コストを開示するなど、顧客向けの情報提供が充実されるこ とが望ましい。