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ツイッターの逮捕歴に関する投稿の削除を命じた最高裁令和4年6月24日判決

 最高裁令和4年6月24日判決は、ツイッターの逮捕歴に関する投稿の削除を命じています。

 

 事案の概要は下記のとおりです。

・上告人は、平成24年に、建造物侵入罪の被疑事実で逮捕され、その後、罰金刑に処せられた(罰金は納付済み)。

・上告人が、上記被疑事実で逮捕された事実が、逮捕当日に報道され、その記事が複数の報道機関のウェブサイトに掲載され、 同日、ツイッター上の氏名不詳者らのアカウントにおいて、本件各ツイートがされた。

・本件各ツイートは、いずれも上記の報道記事の一部を転載して本件事実を摘示するものであり、そのうちの一つを除き、その転載された報道記事のウェブペー ジへのリンクが設定されたものであった。なお、報道機関のウェブサイトにおい て、本件各ツイートに転載された報道記事はいずれも既に削除されている。

・上告人は、逮捕時は会社員であったが、現在は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している。また、上告人は、上記逮捕の数年後に婚姻したが、配偶者に対して本件事実を伝えていない。

 

 原審の東京高裁令和2年6月29日は「被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等に照らすと、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量した結果、上告人の本件事 実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られると解するのが 相当であるところ、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明 らかであるとはいえない」として削除を認めていませんでした。最決平成29年1月31日に沿う判断と思われます。

 

 これに対して本判決では「上告人が、本件各ツイートにより 上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイート を一般の閲覧に供し続ける被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイ ートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない。」としました。

 そして

・上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。

・本件各ツイートは、上告人の逮捕当日にされたものであり、140文字という字数制限の下で、上記報道記事の一部を転載して 本件事実を摘示したものであって、ツイッターの利用者に対して本件事実を速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長期間にわたって閲覧され続けることを想定してされたものであるとは認め難い

・膨大な数に上るツイートの中で本件各ツイートが特に注目を集めているといった事情はうかがわれないもの の、上告人の氏名を条件としてツイートを検索すると検索結果として本件各ツイートが表示されるのであるから、本件事実を知らない上告人と面識のある者に本件事実が伝達される可能性が小さいとはいえない

・上告人は、その父が営む事業の手伝いをするなどして生活している者であり、公的立場にある者ではない

 といった諸事情に照らすと、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当であるとして、各ツイートの削除を求めることができ るとしました。

 「本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合」という本判決の基準は、「上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られる」とした原審の基準よりも削除を実現する方向、プライバシーを保護する方向で拡がったと評価することができます。