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【鳥栖西中いじめ後遺症訴訟】弁護団声明:「鳥栖西中いじめ後遺症訴訟」最高裁不受理決定を受けて

 「鳥栖西中いじめ後遺症訴訟」最高裁不受理決定を受けて

 

 平成24年4月から10月にかけて、鳥栖市立西中学校中学1年生(当時)であった佐藤和威さんは、同級生ら多数から暴力や金銭要求等の凄惨ないじめを継続的に受け、現在もPTSDなどの後遺症に苦しんでいます。佐藤和威さんは、鳥栖市や加害生徒の責任の明確化と人格・尊厳の回復を求めて実名を出して損害賠償請求訴訟を行ってきました。

 

 福岡高裁令和3年7月12日判決は、加害生徒5名らによる肉体的・精神的な苦痛を与える継続的な加害行為を認定し約400万円の損害賠償を認めましたが、鳥栖市に対する請求は棄却されました。また主治医や専門医の複数の診断書・意見書があり、鳥栖市らからは何らの反証がなされていないにも関わらず、PTSDの認定を否定しました。福岡高裁判決は一方では加害生徒らに対してはいじめ対策法等の趣旨なども踏まえて厳しくいじめ行為を認定し、また、いじめの予防・早期発見等について文科省が長年発してきた累次の通達等が教師の知見となっていることを認めながら、他方では教師の見て見ぬふりを許すという極めていびつな判決となっていました。佐藤和威さんは、福岡高裁判決は到底受け入れることはできないとして最高裁判所に上告受理申立等を行い、また署名活動を呼びかけるなどして最高裁における実質審理を求めて来ましたが、最高裁は実質審理に入ることなく令和4年7月12日付で上告不受理決定等をしました。

 

いじめ事件は、今なお全国各地で発生しており、いまこの瞬間も苦しんでいる生徒・児童がいます。いじめ対策推進法の趣旨に基づき、教師のいじめの積極的な発見義務の履践が強く求められていますが、残念ながら教師が今なお見て見ぬふりをして責任逃れに終始する事案も散見されます。福岡高裁判決をはじめ下級審裁判例においても残念ながら教師の積極的ないじめ発見義務を否定するかのごとき判決も存します。最高裁には、全国で今なお発生しているいじめ問題の根絶のために、教師・学校の安全配慮義務・いじめ発見義務についての実質的に審理を行った上で、その義務の存在や内容を積極的に示すことが求められていました。また、いじめ被害者及びそのご家族を長く深く苦しめ続ける重大なPTSDの実態に裁判所が真摯に向き合い、それが他でもない集団的継続的残虐ないじめ行為による結果であることを公に認めることが、被害者及びそのご家族の再生の道のりに必要不可欠でした。ところが、何らの判断をすることなく、不受理決定をしたことは職責の放棄であり大変残念です。このような司法の消極姿勢もいじめを助長する一因となるのではないかとさえ感じられます。

 私たち弁護団は、勇気をもって実名で訴訟を闘ってきた佐藤和威さんやご家族に敬意を表するとともに、引き続き、いじめ撲滅と被害者の救済、司法におけるいじめ発見義務の確立等のために取り組んでいくことを強く誓います。また、この最高裁不受理決定の直前に急逝された渡部吉泰弁護団長のこれまでの正義感あふれる、いじめ被害者救済等の取り組みにも敬意を表し、そのご遺志を継いでいく所存です。

 

2022(令和4)719

鳥栖西中いじめ後遺症訴訟弁護団

弁護士 辰巳 裕規

 同  立花 隆介

 同  池田安寿奈