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どぶろく裁判:最判平成元年12月14日

 いわゆる「どぶろく裁判」に関する最判平成元年12月14日は以下の通り判示しています。

 

 「・・・所論は、自己消費を目的とする酒類製造は、販売を目的とする酒類製造とは異なり、これを放任しても酒税収入が減少する虞はないから、酒税法七条一項、五四条一項は販売を目的とする酒類製造のみを処罰の対象とするものと解すべきであり、自己消費を目的とする酒類製造を酒税法の右各規定により処罰するのは、法益侵害の危険のない行為を処罰し、個人の酒造りの自由を合理的な理由がなく制限するものであるから、憲法三一条、一三条に違反するというのである。

 しかし、酒税法の右各規定は、自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり・・・、これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法三一条、一三条に違反するものでないことは、当裁判所の判例・・・の趣旨に徴し明らかであるから、論旨は理由がない」

 

 どぶろくは酒税法3条4号ハの「その他の醸造酒」となります(さらに同条23号で「雑酒」となります)。同条4号イの「清酒」については同条7号が以下の通り定めています。

(その他の用語の定義)
第三条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
 醸造酒類 次に掲げる酒類(その他の発泡性酒類を除く。)をいう。
 清酒
 果実酒
 その他の醸造酒

 

 清酒 次に掲げる酒類でアルコール分が二十二度未満のものをいう。
 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
 米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の百分の五十を超えないものに限る。)
 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの
二十三 雑酒 第七号から前号までに掲げる酒類以外の酒類をいう。

 

 どぶろくは「こさない」(醪(もろみ)を固体(酒粕)と液体(原酒)にわける「上槽」という作業を経ない)ので「醸造酒」ですが、「清酒」にはなりません。

 酒税徴収権を自己消費目的による幸福追求権よりも重視するのが判例の立場となります。

 

 【関連条文】

酒税法

  (酒類の製造免許)

 第七条 酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の品目(第三条    第七号から第二十三号までに掲げる酒類の区分をいう。以下同じ。)別に、製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(以下「製造免許」という。)を受けなければならない。ただし、酒類の製造免許を受けた者(以下「酒類製造者」という。)が、その製造免許を受けた製造場において当該酒類の原料とするため製造する酒類については、この限りでない。
第九章 罰則
第五十四条 第七条第一項又は第八条の規定による製造免許を受けないで、酒類、酒母又はもろみを製造した者は、十年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。