東電津波試算の怪その2

 JNESの女川原発のクロスチェック報告書では「事業者の最大水位上昇ケースに対しては、断層位置、傾斜角、すべり角を変更した波源モデルを図5.3(1)のように設定し、JSCE01_High、JSCE02、JSCE03、JSCE04と呼ぶ。走向の不確かさについては、第66回地盤耐震意見聴取会の報告資料(06-東通設C-54)を参考とし、海溝近傍で発生する津波地震の特性を踏まえて基準±5°とする。一方、土木学会(2002)では、断層モデルが海溝軸を大きく超える基準±10°まで検討を行った例があるため、感度解析として、図5.3(2)のように、JSCE05、JSCE06、JSCE07を設定する。なお、事業者の走向の不確かさの検討範囲は基準±5°である」との記載がある(16頁)。

 この「第66回地盤耐震意見聴取会の報告資料(06-東通設C-54)は「当該発電所と同じ海域の津波評価を行っている東京電力株式会社東通発電所に係る、保安院の審議を終えた平成22年1月第66回地盤耐震意見聴取会の報告資料(06-東通設C-54.地番随伴事象に対する考慮(津波に対する安全性))」のことのようである(1頁)。

 なお、東京電力の東通原発では、津波試算の結果、敷地高10メートルを超える11,2メートルの津波が「南側」から遡上してくるとされている(東京電力「東通原子力発電所における津波に対する考え方について」)。この試算の際に走向の不確かさは基準±5°が用いられたが、その際の資料が「06-東通設C-54」と思われる。この資料が土木学会2002の基準±10°よりも優先されるようである。「断層モデルが海溝軸を大きく超える」ことが理由のようであるが、JNESはそれでも「走向の不確かさを土木学会(2002)に従って基準±10°に設定した」試算もしている。そしてJSCE07において敷地高O.P.+14.8mを約13cm上回るO.P.+14.98mを試算している(51頁)。

 東電平成20年試算においてもやはり土木学会2002に基づく「走向±10°」の試算も必要だったのではないか。少なくとも規制権限が行使され、東電の試算に対して実施されるJNESのクロスチェック時には「走向±10°」の解析もなされたはずである。

 さらにJNESのクロスチェックでは貞観津波についても「貞観(佐竹モデル8)」「貞観(佐竹モデル10)」「貞観(菅原モデルPB1)」「貞観(菅原モデルMO)」の4パターンの試算がなされている。東電平成20年試算に関しても貞観試算によるクロスチェックが行われていれば、東電でも1号機から4号機前面で8.7mが試算され(もっとも試算の詳細資料は明らかではない)、土木学会2002による概略・詳細パラメータスタディをすれば2~3割上昇するとされていたのだから(東電平成23年3月7日資料参照) 、東側前面からの津波の流入の対策も不可避であったと考えられる。なお、このように貞観試算はJNESのクロスチェックに現に用いられていたのである。 

 ちなみに、東北電力従業員田村雅宣氏の東京地検に対する平成24年12月21日付供述調書添付の「津波バックチェックに関する打合せ(平成20年3月19日火力原子力土木G)」によると、東北電力は津波ハザード解析の結果として「宮城県沖と福島県沖をまたぐ波源」においてはO.P.+18.16m(Mw8.3)、O.P.+22.79m(Mw8.5、走向+5°)とある(敷地高はO.P.+14.8m)。JNESのクロスチェックは波源はJTT1から動かしていないが、波源をJTT2-3にも移動させ、さらに走向を+10°とするとJNESの感度解析よりも、あるいは東北電力の解析の結果よりも更に大きく上回ることになるのではないか。なお、マグニチュードについても0.2大きくする試算がなされている点も興味深い(なお土木学会平成23年9月「確率論的津波ハザード解析の方法」では「固有地震のマグニチュードを1 つの値に限定しているが、現実には1つの値に限定されないと考えられること、また津波に対し てマグニチュードの影響が大きいことからマグニチュードの分布幅を考える」とした上で「マグニチュードの分布幅として基本的に 0.3 と 0.5 を設定した」としている(11頁))。マグニチュードの大きさについても不確かさはあるし、明治三陸沖地震のマグニチュードについて過小評価がなされていた可能性もある。この東北電力の津波ハザード解析についても資料として公にされていない点が残念である。 

 バックチェックがなされた平成20年頃の知見においても、規制権限が行使された際には、波源をJTT2-3に移動させることはもちろんのこと(さらにきめ細やかに位置を推移させて1号機ないし3号機に最も厳しい波高となる地点を探る)、走向を10度に振り、マグニチュードについても少なくとも0.2など幅を持たせて試算することは保安院・JNES・地元自治体等の関与のもとで行われた可能性が強い。このような厳しい試算により東側からも10メートルを超える津波が試算されるモデルがあったのではないか。これを明らかにせずに、規制権限を行使しても東側からの津波は防げなかったと結論付けることは早計である。