東電津波試算の怪その4

 東京電力柏崎刈羽原発に関する「平成22年3月25日付「1号機及び5号機の耐震安全性評価(地震随伴事象に対する考慮)-津波に対する安全性-委員ご質問に対する回答-」には「日本海東縁部に想定される断層と海底地形の関係を示すこと」とのコメントに対し以下の様な回答がなされている(11頁以下)。

 

  • 土木学会(2002)による日本海東縁部の基準断層モデルの走向は,日本海東縁部の断層の特徴が,『走向は等水深線に ほぼ一致し,ほぼ純粋な縦ずれ逆断層(土木学会(2002)より)』であることから,走向方向は海底地形に基づいて設定 している(図1.2.1)。
  • また,日本海東縁部において1976年1月~2000年1月に発生したMw 5.0以上,深さ60km以下の地震を,ハー バードCMT解より抽出して得られた断層の走向と,地形の走向の関係は図-1.2.2.1に示すとおりであり,発震機構解は 地形の走向を中心に分布していることから,地形の走向に対しては±10°のパラメータスタディを実施している。なお, 土木学会(2002)における「日本海東縁部沿岸の評価例」でも,走向の範囲は±10°で実施している 。また他の海域 (三陸沿岸及び熊野灘沿岸)も同様に走向は±10°の範囲で検討を実施している。
  • 統計的には,当然±10°の範囲外のものも存在するが,大津波を引き起こす大規模な地震については,平均的な走向 から著しく外れるものがあるとは考えがたいこと,及び下記の理由により,土木学会(2002)では±10°の範囲が妥当 と判断している。
  • 土木学会(2002)では,三陸沖及び日本海溝沿い,南海トラフ沿い及び日本海東縁部の各領域において,走向,位置, 傾斜角等の断層パラメータを合理的と考えられる範囲で変化させて,想定津波のパラメータスタディの試計算を実施して おり,各領域において,既往津波のすべての痕跡高を超えるとともに,パラメータスタディの結果は痕跡高と比較して平均で2倍程度であることを確認していることから,土木学会(2002)に基づくパラメータスタディの範囲は妥当なものと 判断される(1.1.2(2)参照)。なお,比較対象とした痕跡高の中には,1896年明治三陸津波の綾里白浜における 38.2mも含まれる。
  • 土木学会(2002)における「日本海東縁部沿岸の評価例」でも,走向の範囲は±10°で実施。また他の海域(三陸沿岸及び熊野灘沿岸)も同様に走向は±10°の範囲で検討を実施
  • 土木学会(2002)は、①三陸沖及び日本海溝沿い、 ②南海トラフ沿い及び③日本海東縁部において、 走向、位置、傾斜角等の断層パラメータを合理的と考えられる範囲で変化させて、想定津波のパラメータスタディの試計算を実施。
  • 各領域において、既往津波のすべての痕跡高を 超えることを確認。なお、比較対象とした痕跡高の中には、1896年明治三陸津波の綾里白浜における38.2mも含まれる。

 東電は柏崎刈羽原発においては日本海東縁部ではあるが走向+-10°を用いている。その説明においては土木学会2002において三陸沿岸においても走向+-10°を用いていることにも言及されている。しかし,東電は東通原発について領域3については+-5°の走向とし(東北電力東通と大間は+10°),福島第一原発についても領域3を移動させた領域9においては+-5°の走向としていた。

 規制権限が行使され,長期評価に基づく試算が公にされた場合,研究者や地元自治体・住民からは,パラメータについても様々な意見が寄せられ,またJNESのクロスチェックもなされた上で,技術基準に適合する津波対策が求められることになるし,それが実現するまでは一時停止を余儀なくされることになる。その結果,3.11の時点では福島第一原発は東部からの浸水にも備えがなされた上で再稼働が容認されていたか,さもなくば一時停止の状態のままであった可能性が高い(なお平成14年のいわゆる東電トラブル隠しにより平成14年から15年にかけて福島第一原発は停止していた。この時点で長期評価に基づく試算が規制権限行使に伴い公になれば南側だけに防潮堤を建てることで再稼働は許容されなかったであろう)。

 原子力基本法の民主・自主・公開の原則が厳守され,15.7メートル試算が公開され,パラーメータスタディが十分であるかなどを含めて様々な検証がなされることにより4メートル盤だけでなく10メートル盤を含めた東部からの浸水対策も行われていたか,あるいはそれが実現するまでの間一時停止をしていたことにより,事故は防げたはずである。