規制権限行使と一時停止による結果回避可能性

1.電気事業法

 電気事業法40条は「技術基準適合命令」として「主務大臣は、事業用電気工作物が前条第一項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは、事業用電気工作物を設置する者に対し、その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し、改造し、若しくは移転し、若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ、又はその使用を制限することができる。」と定めている。

2.技術基準適合命令と一時停止はセットであること

 技術基準に適合しない原発の稼働がそのまま許容されるとは思われない。その不適合が軽微であるか、他の対策(水密化)により不適合が解消されるなど特段の事情がない限りは一時停止措置がなされるはずである。なお、一時停止措置の例として下記のものがある。

(1)美浜発電所3号機配管取替等の技術基準適合確認 実施計画に対する確認結果について 平成17年8月29日 原子力安全・保安院

2)読書発電所柿其えん堤洪水吐ゲートの予備電源装置の設置不備について

(3)技術基準適合命令(水力分野の行政処分)

 評価区分Ⅰに該当する次の水力発電施設について、本年5月 7日に電気事業法第40条に基づき、技術基準適合命令(別紙 参照)を行い、安全性が確認されるまで使用を停止することを 命令した。なお、本年4月20日に、本年4月27日を期限と した弁明の機会を付与したが、弁明はなされなかった。

 ・東京電力㈱小武川第三発電所上来沢川ダム

 ・北陸電力㈱市ノ瀬発電所西谷ダム  

3.地元の了解が得られず停止に追い込まれること

 双葉町長であった井戸川克隆氏は地元との安全確保協定のもとでは長期評価による試算津波が規制権限行使により立地自治体に明らかにされた場合には何らの対策もしないままでの稼働は許されなかったと述べられている(令和5年4月22日付陳述書)。

4.一時停止中に3.11津波が襲来しても事故発生の結果回避が可能であったこと

(1)東京電力によると「地震発生時、4号機は定期検査中で、運転を停止しており、原子炉の燃料は全て使用済燃料プールに取り出されていました。津波による全電源喪失で、使用済燃料プールの除熱機能も注水機能も失われ、蒸発による使用済燃料プールの水位低下が懸念されていました。また、3月14日午前4時8分の段階で、使用済燃料プールの水温は84度であることを確認し、燃料上端まで水位が低下するのは3月下旬と予想していました。」とある。(東電HP「4号機ではなぜ水素爆発が発生したか」)。

(2)東電経営者の刑事事件令和元年9月19日判決においても「確かに、原子炉を停止して5日程度経過すれば、原子炉停止直後に比べ燃料の崩壊熱は格段に小さくなっているので、圧力容器内の水位が急激に低下することはなく、また、格納容器と圧力容器の蓋が開放されていれば、圧力容器内への水の補給も容易であったから、本件地震による津波が襲来し、10m盤上のタービン建屋等へ浸入して、交流電源及び直流電源の喪失により炉心を「冷やす機能」を喪失したとしても、圧力容器内への注水が行われるまでに炉心露出や炉心損傷に至ることはなく、本件事故を回避することができたと考えられる。」としている。

(3)1号機ないし3号機も一時停止により冷温停止状態にあれば、少なくとも1号機の水素爆発などが発生する日時も遅れたはずであり、その間に現場の復旧や注水作業も可能であったはずである。事故の発生経過も大きく異なったはずである。

(3)なお元京都大学小出裕彰助教によると,能登半島地震における志賀原発に関連し「原発の使用済み燃料は発熱しているが、10年たつと発熱量は運転停止直後に比べ、千分の1以下に低下する。」「10年もたつと、発熱する放射性核種がほとんど残っていない。21万キロワット分の崩壊熱が千分の1になると210キロワット。1キロワットの電熱器200個分ぐらいを冷やせればいいことになる。仮に全電源が喪失して冷却できなくなっても、巨大な使用済み核燃料プールにつかっているわけだから、水が干上がって使用済み燃料が溶けるような事態にはならない。」とコメントされている(中日新聞2024年1月30日「もし志賀原発が稼働中だったら… 元京都大助教・小出裕章さんの警告」)。

 また時事通信2011年3月18日配信「使用済み燃料、熱が数年持続」では,「愛知淑徳大の親松和浩教授(原子核物理)が、3年間使用した燃料棒から崩壊熱が減少する日数を試算したところ、ゼロに近づくまでおよそ3年かかることが分かった。親松教授は「1日、2日で減るわけではなく、燃料を使った期間だけ時間がかかる。電源が復旧するまで毎日水を運んで冷やさなければいけない」と指摘する。」とある。

 ※ 崩壊熱京都大学複合原子力科学研究所HPより)

 規制権限行使の時期や試算津波に対する防潮堤完成時期にもよるが,一定期間一時停止していた状態で3.11を迎えた場合には崩壊熱も低下し本件事故のような過酷事故にはならなかったはずである(電源や注水による対応が間に合ったはずである)。

5.規制権限行使と一時停止後の東電の対策と再稼働の過程の立証責任は国と東電にあること

 規制権限行使と一時停止(3.11までの継続)により事故の回避可能性を主張立証できた場合、その後に、いつ、いかなる対策が実施され、それにより技術基準に適合すると確認され、地元同意も得て再稼働となっていたか、それによっても3.11津波が防ぐことができなかったかについての立証責任は国と東電に事実上転換される。この場合、4メートル盤の対策も不可避である。南側だけに15.7mの津波を防ぐ防潮壁が実際に建築できたのかも明らかではない。いつ、どのような対策がなされたか、それにより技術基準に適合し、地元同意も得て再稼働となり、3.11を迎えたという因果の流れの主張立証を国・東電がしない限りは規制権限行使・一時停止の継続により事故は防ぐことができたという因果の流れになるはずであろう。