東電津波試算の怪その8

 土木学会2012年7月の「東日本大震災特別委員会 社会安全研究会 中間とりまとめ 「技術者への信頼を回復するために」 」の中に以下の記述がある(13頁)。

 「昭和 41年から 46 年にかけての、福島第1原発の設置許可申請書で想定されていた津波の高さは、小名浜港工事基準面(O.P.)+3.122mである。これはチリ地震津波の記録をも とに想定したもので、当時は津波をシミュレーションで想定するという手法は一般的ではなかったことから採用されたものと思われる。次に、事故当時に想定していた津波は、土木学会が 2002 年に発行した、「原子力発電所の津波評価技術」に準拠して東電で計算し、同年 3 月に保安院に報告した数値を指す。 これに対して東電では第一原発 6 号機の非常用ディーゼル発電機、冷却系海水ポンプの電動機のかさ上げ等を実施した。さらにこの津波高さは、2009年に海底地形データ等の見直しにより 6.1m に更新されている」

 「一方で、東電は、「三陸沖から房総沖の海溝沿いのどこでもM8.2 前後の地震が発生する」 という国の地震調査研究推進本部の見解(2002年7月)に対する仮想的な試し計算も実施し、その結果、2008年に津波高さとして最大で 15.7m を得たとしている。ただし、 この計算内容は公表されておらず、手法において津波評価技術 2002 との関連性も明らかでない。」

 「以上の経緯から記者会見の発言は、東電が自主的に採用していた設計対象の津波高さ (6.1m)に対して、今回の津波の高さが遥かに大きかったという意味で、「想定を超えた 津波」と表現していると解釈できる。 しかし、近年、地震学の新しい知見のもとで上記のように、東電において約 15mの津波 の可能性を算出していたことなどもあり、「想定を超える津波」のフレーズは批判を浴びた 。」

 土木学会も2012年7月時点ではあるが東電試算が土木学会2002に沿ったものであるとは確認できていない。土木学会2002の示す明治三陸沖モデルのパラメータスタディでは波源は南北に10パターン,走向は標準偏差を踏まえて基準±10度としているが,東電試算はこれに沿っていない。従って,予見可能性を基礎付けるものではあるが,回避措置を検討する際に東電試算津波のみを対象にできるほどの試算とまでは言えない。この点は最判令和4年6月17日やこれに追随する下級審判決は誤解している。東電試算を契機に更に詳細なパラメータスタディが行われ,また保安院・JNESのクロスチェックも行われる。そして地元同意が得られる対策でなければならないのである。その際には貞観知見も踏まえたものとなろう。東電試算津波だけを対象とした対策にはならないのである。