1.最判令和4年6月17日は,「本件試算は、本件長期評価が今後同様の地震が発生する可能性があるとする明治三陸地震の断層モデルを福島県沖等の日本海溝寄りの領域に設定した上、平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って、上記断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施し、本件敷地の海に面した東側及び南東側の前面における波の高さが最も高くなる津波を試算したものであり、安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有 する試算であったといえる」としている。
2.しかしながら,土木学会2002は明治三陸沖地震モデル(プレート間逆断層モデル)について波源は南北に10箇所,走向は+-10度に設定している(附属編-1(資料編)2-177以下)のに対し,東電試算は波源は5箇所・走向は+-5度にすぎない。土木学会2002に従っていないし,合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施もしていない。そして,その限られたパラメータスタディの中で南東側で最大水位となったものだけを詳細パラメータスタディしたものであり,東側で最も高くなる津波を試算したものであることの検証はなされていない。従って当時考えられる最悪の事態に対応したものではない。
また,JNESのクロスチェックがなされた際には女川同様に貞観津波による試算もなされることになる(現にJNESは貞観試算でクロスチェックをしているのであるから貞観知見が確立していたかはもはや問題とならない)。さらに4メートル盤上の施設の津波対策も不可避である。
3.また規制権限が行使された際にはドライサイトとされていた重要な設計の見直しとなる対策である以上は一時停止がなされるのが原則である。少なくとも暫定措置の指示は不可避である。そして,地元同意が得られる対策でなければ稼働も再稼働も許されない。なお,平成14年は東電はトラブル隠しで停止を余儀なくされていた。そして再稼働には福島県など立地自治体の同意が事実上不可欠な運用となっていた。
4.規制権限が行使された際には,最判がいうように「本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は、本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高」くなるなどということはない(なお「主眼」はそうであって,あわせて東側からの浸水への留意も併せて存したのではないか。最判はいかなる対策がいつまでに技術基準に適合するものとして実現したのか明らかにしていない)。
また勿論防潮堤建設までの間,無防備が許されるはずもない。その間になされる弥縫策について検討もない。
5.規制権限が行使されたならば東側も含めた防潮堤が建設されるか,弥縫策として水密化などがなされるか,あるいは一時停止が継続し崩壊熱が低下した状態で3.11を迎えていたことになり,事故は回避することができたとなる。最判は見直されるべきである。