規制権限行使と暫定対策実施の指示による結果回避可能性

1.経済産業省は電気事業法106条1項に基づき平成16年6月25日付で「非常用炉心冷却系統ストレーナ閉塞事象に関する報告徴収について」を発している。「1.保温材等の実態調査 ストレーナの有効性評価に必要な、格納容器内保温材、ECCS ストレーナな どデータの詳細」「 2.ストレーナの有効性評価 上記データを米国規制指針 R.G.1.82Rev.3(注参照)に当てはめた評価結果」とともに「 3.暫定評価の立案 ストレーナ閉塞事象防止又は緩和に有効な暫定処置の内容とその実施時期」の調査及び評価を行い,完了した段階において速やかに報告することを求めている。

2.これについて保安院は「東京電力株式会社の原子力発電プラント圧力抑制室内の異物問題に際して、昨年11月に原子力安全委員会の指摘を受け、当院は欧米における異物規制やECCS機能に関する技術基準の調査、わが国事業者の異物管理状況の確認、さらにはわが国の対応の必要性について検証を行ってきました。保安院としては、この検証の一環として、わが国原子力発電プラントの再循環プール(圧力抑制室内プール、再循環サンプ)の異物やストレーナ等の管理状況の実態を把握するため調査を実施することとし」たとしている(2004年6月29日「非常用炉心冷却系統ストレーナ及び格納容器再循環サンプスクリーン閉塞事象に関する報告徴収について」)。

 なお,事案の概要は一般財団法人環境イノベーション情報機構の「ECCSストレーナ、5基中4基で目詰まりの可能性 保安院が暫定対策実施を指示」がわかりやすい。

3.そして保安院は平成17年4月22日付で「非常用炉心冷却系統ストレーナ及び格納容器再循環サンプスクリーン 閉塞事象に関する報告の受理並びに暫定対策実施の指示について」において,全ての原子力発電設備において「暫定対策」として,

 ①海外で発生したストレーナ閉塞事例の事故対応者への周知徹底  ②ストレーナ閉塞事象発生時に対応するための事故時運転手順書の改訂

 ③改訂した事故時運転手順書に基づいた訓練の実施

 ④定期検査等における原子炉起動の際の格納容器内清掃・点検の実施

 を指示している。

4.長期評価に基づき敷地高10メートルを超える津波が試算されていた場合,技術基準適合命令とともに本来であれば一時停止を命じることが原子力発電所の危険性に鑑み当然ではあるが,仮に一時停止まで命じない場合でも,そのまま防潮堤ができるまで無防備にすることは許されず,暫定対策として,水密化や非常用電源の高所配置,全電源喪失時の手順書の作成や訓練などは指示されていたはずである。このような弥縫策だけでもなされていれば本件事故は回避できていたはずである。