東電津波試算の怪13 土木学会2002

土木学会津波評価技術2002附属編(資料編)2-175「3.1パラメータスタディの手順」には【概略パラメータスタディ】として「想定津波の発生域において基準断層モデルによる最大水位上昇量が最も厳しい結果を与える位置等の検討」とある。そして「想定津波の発生域において基準断層モデルを逐次移動させながら,検討対象地点で最も厳しい結果を与える位置を求める」とある。

 また「パラメータースタディを実施する各因子について,ハーバードCMTによる発振機構解および既往の断層モデルからばらつきを評価すると表3.1-1のとおりである・・・パラメータスタディの合理的な範囲を設定する場合,これらが目安となる」とある。

【2-176】にある【表3.1-1 既存断層パラメータのばらつきの評価結果】には「日本海溝北部」「プレート間逆断層地震のハーバード解」として「データ数29」「走向」の「標準偏差」「12.1」,「日本海溝南部」として「データ数14」「走向」の「標準偏差」として「13.5」とある。この標準偏差がパラメータスタディの目安となるはずである。

【2-177】の「3.2 三陸沿岸の評価例」には「3.2.1 条件設定」として

① 基準断層モデルの位置を図3.2.1-4のように逐次移動する。

②・・・領域3は10か所・・・の位置に基準断層モデルを設定する

とある。

【2-182】では【3.2.3 詳細パラメータスタディの結果】として「(2)領域3(逆断層)」では「走向θ」について「基準,基準±10°」で変化をさせている。これは標準偏差を踏まえて10度としたと思われる。

 これらが土木学会2002の評価手法である。

他方,東電平成20年試算は断層モデルは土木学会2002の三陸沖の領域③(及び④)を用いるとしつつ,概略パラスタ用断層モデルとしては,図1-2に示すように位置を北から南へ【5パターン】とし,プレート間(津波地震モデル)では走向を【±5°】の3パターンとして各モデル計15ケースを設定したとある。土木学会2002では位置は【10パターン】,走向は【±10°】であった。この点において東電平成20年試算は土木学会2002に従っていないのではないかとの疑問がある。


そして【表2-1】の【概略パラスタ検討結果】では【ケース名】【R9-06】【位置】【やや北】【走向θ】【+5°】で【最大値】となっている。しかし,土木学会2002に従い位置を少なくとも10箇所移動させた場合には【北】と【やや北】,【やや北】と【中央】の中間地点なども逐次移動させて試算をすべきではないか。走向も【基準±10°】も試算すべきではなかったか。そして,その結果,更に高い水位が試算されたならば,そのケースについて詳細パラスタを行うべきであるし,少なくとも対策工事を検討する際には,さらなる精査と裕度の設定が求められたはずである。

 なお、「東京電力株式会社 東通原子力発電所 地震随伴事象に対する考慮 (津波に対する安全性) 平成22年1月 原子力発電安全審査課」においても、位置については領域3において概略パラスタで5か所試算した後に、詳細パラスタでさらに3ケース試算している。「・準断層モデルを用いて位置及び走向を組合せた計 42 ケースの概略パラメータスタディを実施し,最大 値を示すケースを抽出した。・上記の最大値を示すケースを基に,位置及び走向を詳細に検討し,さらに傾斜角,すべり角及び断層上 縁深さを組合せた詳細パラメータスタディ(上昇側最大ケースに対して計 102 ケース,下降側最大ケー スに対して計 93 ケース)を実施し,最大値を示すケースを抽出した。」とある(10頁)。概略パラスタで大づかみした「位置」について更にきめ細やかに位置を移動させて試算をしている(もっとも走向は5度のままである)。

 また、東電の平成20年11月18日付「柏崎刈羽原子力発電所 「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」 の改訂に伴う耐震安全性評価 地震随伴事象に対する考慮 津波に対する安全性」においても、概略パラで抽出したモデルに対して詳細パラにおいてさらに「最高(最低)水位モデルを基準に【10km単位】で移動」させている(15頁)(走向は±10度・なお長期評価の波源位置も考慮している(14頁))。 


 東電の平成14年3月「津波の検討-土木学会「原子力発電所の津波評価技術」に関わる検討-」においても,領域7についてであるが,概略パラスタでは波源位置を40㎞で9ケース移動させた後に,詳細パラスタでは10㎞ごとに12ケース移動させている(走向はプラスマイナス10度)。

  このようにみると東電平成20年試算はJTT2-3という広域において大づかみをするために5か所の波源位置の移動はしているが、最高水位を試算した「やや北」について、例えばさらに位置を10キロごと動かすなど更に最高水位を試算するケースを探るために、きめ細やかに波源を移動させる作業を欠いていたのではないかと思えてくる。 

 最判令和4年6月17日は「本件試算は、本件長期評価が今後同様の地震が発生する可能性があるとする明治三陸地震の断層モデルを福 島県沖等の日本海溝寄りの領域に設定した上、平成14年津波評価技術が示す設計津波水位の評価方法に従って上記断層モデルの諸条件を合理的と考えられる範囲内で変化させた数値計算を多数実施し、本件敷地の海に面した東側及び南東側の前面における波の高さが最も高くなる津波を試算したものであり、安全性に十分配慮して余裕を持たせ、当時考えられる最悪の事態に対応したものとして、合理性を有する試算であったといえる。」とするが,土木学会2002の評価方法に必ずしも従ってはいないし,合理的と考える範囲内で変化させた数値計算を多数実施したとも言えず,最も高くなる津波が試算されたのかも,当時考えられる最悪の事態に対応したものと言えるのかも疑問である。10メートル盤を超える津波の予見可能性を基礎付ける意味では合理的な試算であるが,これのみに依拠して対策工事をすればよいと言えるほどの合理的な試算とまでは言えず,対策工段階に向けて更なる緻密な試算とともに裕度のある対策がなされるべきであったし,国が規制権限を行使した際には,そのような対策がなされたはずである。