東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故時運転操作手順書について(その3)

 福島第一原発の事故時運転操作手順書の「Ⅱ タービン・電気編」「第12章 外部系統事故」「12-4 全交流電源喪失」(1号機)には以下の記述がある。

 「1.事故概要

 全交流電源喪失により、原子炉スクラムし、交流電源を駆動源とする機器及び計器は運転不能となり、給水全喪失となるため原子炉水位の低下状況を確認し高圧注水系(HPCI)を手動起動する。原子炉水位低下が早くL-Lに至った場合HPCIの自動起動により水位は回復する。(自動起動しない場合、手動起動実施)

 原子炉水位回復後は原子炉圧力高にて非常用復水器(IC)が作動し、原子炉水位はHPCIにて充分確保できるが、DCバッテリー容量の確保のためにHPCIがL-8でトリップした場合には、そのまま待機状態とする。」

 まずはHPCIで水位を回復し、その後にICで圧力を調整するという流れの様である。もっともフェールセーフで閉となることやDCバッテーリーも同時に喪失した場合のことはここでは想定されていない。3.11では3号機だけがDCが機能維持しHPCIを起動できた。

 ここで1号機ではHPCIは水位L-Lにおいて自動起動sし、L-8でトリップ(停止)する設定であったことがわかる。L-Lは-148cm、L-8は+121.3cmである。

 他方、2号機の「第12章 外部系統事故」「12-4 全交流電源喪失」では以下の記載となっている。

1.事故概要

 全交流電源喪失により、原子炉スクラムし、交流電源を駆動源とする機器及び計器は運転不能となり、給水全喪失となるため原子炉水位の低下状況を確認し原子炉隔離時冷却系(RCIC)を手動起動する。原子炉水位低下が早くL-2に至った場合RCIC、高圧注水系(HPCI)の自動起動により水位を回復する。(自動起動しない場合、L-1前に手動起動実施)原子炉水位はRCICにて充分確保可能であり、DCバッテリー容量の確保のためにHPCIが自動起動した場合にはRCICの健全性と水位回復を確認後HPCIを停止する。」

 2号機ではRCICによる対応がメインとなっている。RCICの手動起動が間に合わず、L-2まで水位が下がった場合にはHPCIとRCICが同時に自動起動する設定のようであるが、その後はL-8までの回復を待たずにHPCIを停止してPCICに一本化する方向での手順となっている。どこかしらHPCIを動かすことには積極的ではない感じを受ける。3.11においても2号機と3号機では外部電源喪失・スクラム停止後素早くRCICが手動起動されている。HPCIの自動起動状態を招かないようにするためのようにも感じられる。いすれにしてもDCバッテリーも喪失することは想定されていない。

 ところで、ここでHPCI・RCICの自動起動のレベルがL-2であることがわかる。L-2とは-1,220mm、L-8は+1,483mmである。1号機は-148cm、+121.3cm…原子炉の大きさが異なるからであろうか。RCICを持たない1号機では2号機と同じか早めにHPCIが自動起動するように水位設定がなされてもよいと感じるが、ICが機能するまでにHPCIが自動起動することを避けるために起動水位・停止水位ともに低めに設定したのだろうか…

 以上見てきた通り1号機のHPCIの自動起動の水位はL-Lの148cm、2号機はL-2となる-1,220mm(-122cm)であることがわかったが、3.11においては地震発生後、津波までの間には1号機を含めて水位はL-LないぢL-2まで下がることはなかったということであろうか。

 なお、松野元「推論トリプルメルトダウン 原子炉主任技術者が福島第一原発の事故原因を探る」(創英社 三省堂書店)には平成22年6月17日発生した福島第一・2号機の原子炉自動停止事案について紹介されている(30頁以下等)。

 外部電源喪失により水位が約2メートル低下したがRCICを手動起動させることで対応をしたとある。しかし2m低下した場合、L-2を下回っていたのであればHPCIが自動起動したはずであるなどの指摘をなされている。

 

【参照】

 ■東電HP「福島第一原子力発電所2号機における原子炉自動停止について

 ■東電HP「福島第一原子力発電所2号機における原子炉自動停止に関する調査結果について

 ■保安院HP「東京電力(株)福島第一原子力発電所2号機の原子炉自動停止に関する調査結果を踏まえたリレー誤動作の周知について(注意喚起)

 ■2011年月1日参院予算委員会

 

  • 234 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 報告書、何日も前からお願いしているんです。そして、返事が来ません。メールが送られてきましたけれども、あちこち探しておりますが見当たりませんということでございます。どうなっているんですか。  東電に伺います。二〇一〇年六月に、つまり去年の六月でございますけれども、福島第一原発二号機の電源喪失、水位低下事故について報告をいただきます。

  • 235 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) 御報告申し上げます。  二〇一〇年六月に発生いたしました福島第一原発二号機の事故でございます。  これは、経過を申し上げます。  作業員が誤りまして電源系のリレーに接触して誤動作したことによりまして発電機が停止する、同時に原子炉が停止した、あわせて外部電源が喪失されたと、こういう事象でございます。  原子炉の水位につきましては、蒸気で駆動する冷却装置、これが、運転員が起動させまして適切に確保されております。また、電源につきましては、非常用のディーゼル発電機が自動的に起動をいたしております。その約三十分後になりますが、外部電源の復旧も完了いたしまして、その一時間後には通常の電動駆動のポンプへの切替えも終わり、原子炉に給水していると、こういう経過でございます。

  • 236 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 三十分も動かなかったんですね。

  • 237 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) 外部電源への切替えが完了するまで三十分掛かったということであります。

  • 238 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 非常用ディーゼル発電機が三十分近く動かなかったのではないかという報道もございます。非常用発電機が作動するまでに何分掛かりましたか。

  • 239 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) 非常用ディーゼルは正常に作動し、その後、外部電源に切り替わったと、こういうことでございます。

  • 240 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 切り替わるまでに三十分掛かっているんでしょう。その間、電源がなかったんじゃないんでしょうか。

  • 241 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) 非常用ディーゼルで電源が確保されておりました。

  • 242 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 しかし、原子炉内の水位は約二メーター低下したというふうな報告も受けておりますけれども、どうなっておりましたでしょうか。

  • 243 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) 一時的に低下しましたが、速やかに復旧してございます。

  • 244 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 曖昧な表現ですのでよく分かりません。何メーター低下して、何分間そういう状態が続いたんでしょうか。

  • 245 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) 二メーターくらい低下した状態が約三十分でございます。

  • 246 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 今回の事故と同じようなことが起きているわけですよ。あわやメルトダウン、そういう状況が起きかねない。二メーター水位が下がって三十分それが続いた。  原子力保安院、これは確認していますか。

  • 247 寺坂信昭

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    ○政府参考人(寺坂信昭君) 私どもといたしましては、先ほど清水社長がお答えしたラインで、非常用ディーゼル発電機は起動いたしましたけれども、電源切替えに伴います瞬間的な停電が発生したために原子炉内での圧力が上昇して給水停止、それから原子炉の水位の低下という事実があったというふうに確認をしております。そのため、安全弁が開きまして原子炉圧力を下げるとともに、原子炉隔離時冷却系、これが自動起動する前に手動で起動させまして水位を回復、維持をしたというふうに理解をしてございます。

  • 248 森ゆうこ

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    ○森ゆうこ君 清水社長、なぜこの事故を契機に、外部電源喪失時の対応の再点検、そして対策を講じなかったのでしょうか。まさしく今回の地震で起きた外部電源喪失という事態を既に昨年の六月に経験しているではありませんか。

  • 249 清水正孝

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    ○参考人(清水正孝君) ただいまの事実経過のとおり外部電源が喪失されたということでありますが、運転員の操作により速やかに復旧がなされたという経過もございました。  一方、今回の福島第一原子力発電所の事故は、やはり大地震によって外部電源が喪失する、さらに津波によってディーゼル発電機の機能が喪失してしまったと、このような事象でございます。結果といたしまして今回の事態を引き起こしてしまったということについては深く反省し、大変申し訳ないと思っておるところでございます。  今回の福島の第一事故につきましては、これから外部の有識者の方々も含めた事故調査委員会で調査、検証をしてまいりたいと、このように考えております。