3.11東海第二原発では津波襲来前ECCSによる冷却がなされていたこと

 平成25年8月原子力安全推進協会「女川原子力発電所 及び 東海第二発電所 東北地方太平洋沖地震及び津波に対する 対応状況について(報告)」によると3.11当時運転中であった日本原電東海第二原子力発電所の状況について以下の記述がある。

 

・地震発生当時BWR-5マークⅡが定格熱出力一定運転をしていた。

・系統構成

【原子炉隔離時冷却系(RCIC)】

 通常運転中、何らかの原因で主蒸気隔離弁の閉等により主復水  器が使用できなくなった場合、原子炉の蒸気でタービン駆動ポンプを回して復水貯蔵タンクの水を原子炉に注水し、燃料の崩壊熱を除去し減圧する。また、給水系の故障時等に、非常用注水ポンプとして使用し、 原子炉の水位を維持する。

【残留熱除去系(RHR)】

 原子炉を停止した後、ポンプや熱交換器を利用して冷却材の冷却(燃料の崩壊熱の除去) や非常時に冷却水を注入して炉水を維持する系統(非常用炉心冷却系のひとつ)で、原子炉 を冷温停止に持ち込める能力を有している。原子炉停止時冷却モード、低圧注水モード(非 常用炉心冷却系)、格納容器スプレイモード、圧力抑制室冷却モード、使用済燃料プール水冷却モードの 5 つの運転モードを有する。

【非常用炉心冷却系(ECCS)】

 低圧炉心スプレイ系(LPCS)、低圧注水系(LPCI)、高圧炉心スプレイ系(HPCS)及び自動減圧系(ADS)からなり、原子炉再循環系配管のような原子炉冷却材圧力バウンダリーの配管が破断し、冷却材喪失事故(LOCA)が発生した場合に、炉心から燃料の崩壊熱及び残留熱を除去し、燃料の過熱による燃料被覆管の破損を防ぎ、さらに、これに伴うジルコニウムと水との反応を抑制する。

・地震直後、外部電源 3 回線(275kV 系並びに 154kV 系)は喪失した。このため、非常用ディー ゼル発電機 3 台(2C、2D、HPCS)が自動起動し非常用電源母線へ電源が供給された。

・地震の影響によりタービン軸受の振動が増加し、タービン軸受振動大の信号によりタービン発電 機が自動停止し、原子炉自動停止に至った。

・東海第二は、定格熱出力一定運転中であったところ、3 月 11 日 14 時 48 分に地震によるタービ ン軸受振動大でのタービン発電機が自動停止し原子炉が自動停止した。地震発生直後、3 回線ある外部電源が全て喪失したが、非常用ディーゼル発電機 3 台が起動したことにより非常用機器への電源は確保された。

・原子炉自動停止直後は、原子炉隔離時冷却系及び高圧炉心スプレイ系により原子炉水位は通常水位で保たれるとともに、主蒸気逃し安全弁により原子炉圧力は制御された。原子炉停止後の崩壊熱は、残留熱除去系のサプレッションプール冷却により除去した。 その後、津波の影響により非常用ディーゼル発電機海水ポンプ(2C)が自動停止し非常用ディー ゼル発電機(2C) は使用できなくなったが、残り 2 台の非常用ディーゼル発電機により非常用電 源は確保し、原子炉及び使用済燃料プールの冷却機能に影響はなく、3 月15 日 0 時 40 分に原子炉 を冷温停止した。

・原子炉停止直後の水位変動(低下)により、非常用炉心冷却系の 1 つである高圧炉心スプレイ 系、原子炉隔離時冷却系が自動起動し原子炉が高圧状態での原子炉への注水機能が確保され、原 子炉水位は、確保された。その後の原子炉水位維持は、原子炉隔離時冷却系(水源は、当初は復水貯蔵タンク、後にサプレッションプール)により実施し、原子炉圧力の制御は、主蒸気逃し弁開閉操作により実施した。

・津波による北側ポンプ室への海水浸入により、非常用ディーゼル発電機海水ポンプ(2C)が停止した。このため、非常用ディーゼル発電機(2C)が使用不能となり非常用交流電源母線 2Cが 停電した。非常用交流電源母線 2D と高圧炉心スプレイ系は引き続き電源確保され、非常用機器への電源供給は維持された。また、非常用直流電源は非常用電源母線よりバッテリーへ充電するとともに直流電源負荷へ供給した。停電した非常用交流電源母線 2C につながる直流電源は、健全な非常用交流電源母線か らの電源供給に切替わってバッテリーへ充電したことから、直流電源が喪失することはなかった。 原子炉自動停止後の崩壊熱除去のため、残留熱除去系(B)を手動起動し、サプレッションプ ールの冷却を開始した。

・冷却系がB系1系列のみ使用可能状態であったので、サプレッションプールを冷却していた残留熱除去系を炉心冷却に切り替えるためには、一旦停止する必要があった。切り替えが失敗すると冷却系が喪失するために、念のために、13 日の午後に外部電源が復旧し、A 系が復旧 して 2 系列使用可能となるまで待ってから、A 系を原子炉停止時冷却モードに入れて炉心冷却に入った。

 

 

14:46 地震発生(東海村 震度 6 弱)

14:48 タービン軸受け振動大によりタービン発電機が自動停止しター   ビン主蒸気止め弁閉 で原子炉自動停止

14:48 高圧炉心スプレイ系自動起動

14:49 原子炉隔離時冷却系自動起動

14:52 高圧炉心スプレイ系注水弁自動閉及び原子炉隔離時冷却系自動停止(原子炉水位高(L -8)による)

15:36 原子炉隔離時冷却系手動起動(原子炉への給水) 

平成 23年3月12日

11:37 原子炉水位を原子炉隔離時冷却系から高圧炉心スプレイ系による原子炉水位制御へ切り替え

13:11 原子炉隔離時冷却系手動停止(原子炉圧力低下に伴う)

 

 外部電源喪失+原子炉停止の際にはまずはECCSと位置づけられているHPCS(高圧炉心スプレイ系)とRCICが同時に自動起動し、L-8の水位回復を図っている。福島第一では2号機と3号機のRCICの手動起動が先になされECCSの自動起動はなされていない。RCICのみを先に起動させECCSを起動させないことがよいのか、まずはECCSとRCICを同時に起動させて強力な冷却をしながら水位を回復させるのがよいのか、ではなぜ東海第二ではRCICだけを先に手動起動させないのか、ボイド(泡)による水位上昇によるL-8停止との関係で解明が必要なように思われる。

 

 【5/11追記】 東海第二発電所「停止・冷却設備への対応について(改訂版) 」(2022年7月29日 日本原子力発電株式会社)では「高圧の注水系は炉心からの崩壊熱が大きな原子炉の停止直後から,速やかに燃料を冷却する ことができるため,事故直後,第一に動作が求められる。」とされている(③高圧注水手段の強化)。

 

【5・13追記】茨城県HP「東北地方太平洋沖地震発生後の 東海第二発電所の状況及び安全対策について 平成23年10月24日 日本原子力発電株式会社

 1.発生時の状況[3月11日(金)] 定格熱出力一定運転中のところ、3月11日14時46分に発生した東北地方太平洋沖地震に伴い軸振動大により 自動停止 原子炉自動停止 (1)原子炉及びタービンは安全に停止 (2)全外部電源(275kV(2回線)、154kV)停止 全非常用ディ -ゼル発電機(3 台)が自動起動 (3)タービン主蒸気止め弁閉止により原子炉圧力上昇 原子炉水位が一時的に低下 ・原子炉水位低下により、高圧炉心スプレイ系(HPCS)・原子炉隔離時冷却系(RCIC)が自動起動しRCICの注水に より原子炉水位確保

2.状況の推移(上記、「1.発生時の状況[3月11日(金)]以降の状況) ○3月11日(金) ・ ①原子炉水位はRCIC系で確保(HPCS系は待機運転)。 ②原子炉圧力は主蒸 気逃がし安全弁により 制御。③圧力抑制プール(格納容器内)は残留熱除去系(RHR)A系及びB系で冷却 ・19時25分 津波の影響により非常用ディーゼル発電機冷却用海水ポンプ2Cが水没しトリップ、非常 用ディーゼル発電機2Cを手動停止(RHR A系使用不能)。非常用ディーゼル発電機2DとHPCS系 ディ ゼル ー 発電機 で電源 を確保 ○3月12日(土) 13時11分 原子炉圧力低下に伴いRCIC系停止。HPCS系により原子炉水位確保。