55℃/Hの運転制限は適用されないこと

 東電の事故調査報告書「福島原子力事故調査報告書 別紙2(主な時系列)(PDF 3.22MB)」によると,1号機では「1号機の制御盤前でパラメータを監視していた運転員が,原子炉圧力が低下していることを確認した。主蒸気隔離弁が閉鎖した状態にもかかわらず原子 炉圧力が低下していたため,他の運転員に原子炉圧力の低下原因の確認を依頼したところ,非常用復水器(以下,「IC」)2 系統が起動(14:52 自動起動) しているとの報告がなされた。中央制御室では,IC起動による蒸気発生音を確認した。

・ 1号機の原子炉圧力の低下が速く,操作手順書で定める原子炉冷却材温度変化率 55℃/h が遵守出来ないと考え,15:03、IC の戻り配管隔離弁 (MO-3A,3B)を一旦 「全閉」とし,他の弁は開けたままで,通常の待機状態とした。」とある(2頁)。

 確かに福島第一の保安規定37条には原子炉冷却剤温度変化率が55℃/h以下を運転上の制限としている。原子炉圧力容器の非延性破壊防止及び熱疲労低減のためのようである。しかし,地震発生・外部電源喪失による原子炉停止の状況下で,原子炉設備の保護に気を配る余裕があるのか疑問ではある。


 しかし保安規定においても異常時の措置(76条以下)においては運転上の制限の例外規定がある。まず76条1項(1)は原子炉の自動スクラム信号が発生した場合を異常の発生とし,77条3項では「異常時の措置」として「76条1項の異常が発生してから当直長が異常の収束を判断するまでの機関は,第3節運転上の制限は適用されない」としている(なお4項は当直長は第3項の判断を行うにあなって,主任技術者の確認を得る。」とある。

 1号機においてはIC(非常用復水器・IC)の運転に際して「55℃/h」の運転制限は適用されないはずである。このことが手順書に明記されていないのであれば手順書に問題があったことになるし,保安院はこれを見逃していたことになる。

 


 ちなみに77条を受けた「添付1 原子炉がスクラムした場合の運転操作基準(第77条関連)」では,保安規定と一体となるものとして運転操作基準が定められている。

 そして一般的な注意事項として「(3)非常用炉心冷却系,非常用交流電源及び非常用ガス処理系等が自動作動した場合は,2つ異常の独立した計器により状況を確認するまでは,自動作動が正しいものとして対処し,不用意に手動停止しない」「(6)非常用炉心冷却系が自動作動した場合に,十分な炉心冷却が確保されていることが少なくとも2つ以上の独立した計器により確認できない場合は,非常用炉心冷却系を手動操作してはならない。さらに,炉心冷却が確保され,非常用炉心冷却系の手動操作が必要なくなり,手動停止した場合は,当該系統を必ず自動作動できる状態とする。」とある。

 ICが自動起動したのであれば,これを不用意に手動停止してはならないし,津波襲来後ではあるが3号機でHPCIが起動した後はこれを不用意に手動停止してはならなかった。また,予め安全を考慮して自動起動の基準を定めているのであろうから,HPCIやRCICについても自動起動に委ねるべきではなかったか(スクラム停止後,自動起動について同じ基準を持っているはずのHPCIは寝かせておいて,クイックスタートでRCICのみを操作する手法の適正は検証が必要である)。

 地震発生後,津波襲来までの間においては,冷温停止を目指す異常時とは扱わず,いずれ外部電源が復旧すると考え,平常時の運転として,高温待機運転を継続する意図があったのではないかとさえ感じるところである。

 仙台原子力問題研究グループ「福島原発事故原因:「地震後運転操作」の不適切さ=東電の責任!▼(改訂版)」に多大なご示唆をいただきました。