BWRでは、通常運転時やそれを逸脱した異常過渡と呼ばれる状態において、図3の左側に示されるように燃料棒は常に液膜で覆われ、燃料棒の表面温度は水温よりわずかに高い程度に抑えられ、過度に温度が上昇しないように設計されています。一方、事故時には、流量の減少や圧力の低下によって燃料棒の表面を覆っていた液膜が消失し、図3の右側に示すようなドライアウトと呼ばれる状態となり、露出した燃料棒の表面温度が急上昇することが知られています。このような熱伝達の劣化を「沸騰遷移※7」と呼び、この温度上昇は、原子炉の緊急停止に失敗した場合には更に顕著となり、炉心損傷を引き起こすことが懸念されます。表面温度が低下するためには、ドライアウトした表面が再び液膜で覆われる、リウェットが生じる必要があります。炉停止失敗時には、高熱出力かつ高圧条件となり、さらに原子炉に備えられたバルブ(主蒸気逃し弁)がくりかえし開閉することで引き起こされる振動的な条件や、熱出力及び冷却材流量の変動も加わり、ドライアウトとリウェットを繰り返す複雑な状態になることが特徴です。従来の研究ではこのような条件での実験例がほとんどなく、本現象を理解するには新たな実験データベースの構築が必要です。
(7) 沸騰遷移
蒸気が伝熱面から気泡状に生成し離脱を繰り返す核沸騰と呼ばれる状態から、伝熱面が蒸気膜で覆われる膜沸騰への沸騰形態の遷移のことをいう。BWRの場合、燃料被覆管を覆う水の膜(液膜)が消失し被覆管表面が乾いた状態になる現象を指して用いられる。
■JAEA「原子炉の物理」より
PWR では被覆管表面から熱エネルギーを受け取った冷却材は液体状態を保つが、BWR で は冷却水が沸騰するため熱伝達が複雑になる。BWR での熱伝達を考えるための身近な例と して、水を入れた金属製の鍋をコンロにかけた状況を考えよう。 水の温度が高くなるにつれて、鍋の底から泡が出てきて、そのうち鍋に入れた水は沸騰す るはずである。このような沸騰を核沸騰(nucleate boiling)と呼び、BWR ではこのような 沸騰を介して熱エネルギーが冷却材に伝わる。 一方、ここで、コンロの火を徐々に強くし、最終的に「ロケット噴射並みの超強力」なも のにしたらどうなるだろうか?単に水が沸騰するまでの時間が短くなるだけだろうか?このような状態では、伝熱面(鍋の底面)であまりにも多数の泡(蒸気)が発生するため、伝 熱面が蒸気の膜で覆われてしまう。蒸気は気体であるため、水に比べてはるかに熱の伝わり 方が悪い。言ってみれば、伝熱面が蒸気という断熱材で覆われたようなものである。では、 伝熱面はどうなるであろうか。水に伝わる熱が極端に少なくなるため、伝熱面の温度は急上 昇することが予想される。このような沸騰現象を、核沸騰に対して膜沸騰(film boiling)と 呼ぶ。何らかの原因で燃料ペレットの発生熱エネルギーが急上昇し、沸騰現象が核沸騰から 膜沸騰へ遷移すると、燃料棒表面から冷却水への熱伝達が阻害され、被覆管表面温度が急激 に上昇し、被覆管の破損(焼損)に至る。PWR も含めて、原子力発電プラントの燃料設計、 熱設計ではこの点に大きな注意が払われている。具体的には、被覆管表面から冷却材への熱 の流れの大きさ(熱流束)に関して、冷却材が膜沸騰へ遷移するときの値が評価され、トラ ブルも含んだプラントの運転中に熱流束がこの値を十分下回るように設計される。
原子炉においては、原子炉容器に鋼鉄が使用されている。鋼鉄が中性子の照射を長時間に わたって受けると、格子欠陥などにより、低温脆性を示す温度点(脆性遷移温度)が次第に 上昇してくることが知られている。原子炉容器製造時にはマイナス(℃)であった遷移温度 が数十℃まで上昇することもある。原子力発電プラントの通常運転時は、原子炉容器は 300℃程度となっているため脆性は示さないが、事故の際、原子炉に水を緊急に注水する緊 急炉心冷却系(Emergency Core Cooling System: ECCS)が動作すると、室温に近い水が原子炉容器内に注入される。そのため、脆性遷移温度が高くなりすぎると、原子炉容器が脆性 破壊する可能性が生じる。
(引用終わり)
※疑問
沸騰膜が形成された後にICやRCICの注水を継続しても(水位は仮に回復したとしても)燃料棒の冷却になっていないのではないか。HPCIの強力な注水は沸騰膜を壊し冷却を可能とするのではないか。