RCICおよび HPCIの構造

 日本機械学会論文集「福島第一原子力発電所 3 号機事故の熱流動現象推定 (熱力学モデルによる高圧注水系(HPCI)の挙動)」(円山 重直教授)に以下の記述がある。

 

 3号機HPCIの挙動を検討する前に隔離時冷却系(RCIC)とHPCIの一般的挙動について検討する.図1は,2011年3 月12日12:30現在の3号機の現状とHPCIの概要を示したものである(TEPCO, 2012b).なお,RCICも図1のHPCIと同 様な構造である.どちらもRPVの高圧蒸気でタービンを回し,その動力でCSTまたはS/Cの水を高圧ポンプでRPV 内に注入するシステムである.タービンを駆動した蒸気は,S/Cで凝縮し水となるため,S/Cの温度が上昇する. HPCIもRCICもスクラム(原子炉緊急停止)直後以外は,注水能力は崩壊熱発生量より多いために水位が上昇し, RPV水位高の信号により全ての直流モーター駆動弁が閉鎖される.その後,RPV内圧力が上昇し7.37 MPa以上で, 逃がし安全弁(SRV)が作動し蒸気をS/Cに放出するために,水位が低下する.RPV内水位が有効燃料頂部(TAF) よりTAF+2.95mでHPCIが自動起動するように設定されている(TEPCO, 2011d).つまり,直流電源が正常なときの 緊急冷却はRCICまたはHPCIの間欠運転とSRVの作動によって炉心を冷却する.高温になったS/C内の水は,通常 時は残留熱除去系(RHR)により海水で冷却されて,原子炉を安定状態に導く.しかし,事故当時は津波でRHR の海水ポンプが破壊されたことと,交流電源の遮断でRHRが作動しなかった. HPCI と RICI は共に RPV と格納容器(PCV)の圧力差 1.03MPa から 7.74MPaで動作するよう設計されている (ICAFNPS, 2011).HPCI の注水能力は初期崩壊熱に対応できるよう十分な能力を持っている.つまり定格注水能 力は RCIC で毎時 97 トン,HPCI で毎時 965 トン(TEPCO, 2012b)である.特に HPCI の注水能力は RPV の水位 を 1 時間で約 40m 上昇させるもので,本来 HPCI は事故後かなりたってからの運用は想定されていないようである.3 号機の場合,RCIC,HPCI 共に RPV への水源は復水貯蔵タンク(CST)から供給されていた.

(引用おわり)

 RCICの10倍の力を持つHPCIは原子炉スクラム停止直後の崩壊熱を抑えるためのものと理解される。このHPCIの起動をさせずにRCICの手動起動を急ぐのは疑問であるし(2号機・3号機)、1号機にはRCICは備わっていないのであるから注水能力があるHPCIが第一次的に利用される設計だったのではないか。なぜHPCIの利用に消極的なのか、せめて「地震発生」による「外部電源喪失」を伴う「スクラム停止」+「津波警報発令時」には、直流電源が津波により機能喪失する前に直ちにHPCIを起動して崩壊熱を抑える事故時操作手順書を(せめてRCICの設置されていない1号機だけでも)策定すべきだったのではないか(東電平成20年試算+溢水勉強会により全電源喪失は予見できていた)。手順書の整備は防潮堤・水密化工事よりも素早く行うことができる。

 HPCIの起動による原子炉の脆化を避けようとする運用であったのあれば極めて問題である。