
独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES)の平成19年4月「津波解析コードの整備及び津波伝播のパラメトリック解析」には以下の記述がある。
② 津波伝播のパラメトリック解析
津波ハザード評価では、震源のモデル化に際し、震源の位置や地震の規模、断層の幾何形状など、自然現象における不確かさを考慮する必要がある。また、これらの不確かさが原子力発電所沿岸の津波波高に及ぼす影響を把握する必要がある。そこで、本検討では、断層の幾何形状に着目し、走向角および傾斜角を変化させて津波伝播のパラメトリック解析を実施した。 対象サイトは、東北地区および東海地区の太平洋沿岸部とし、それぞれ以下に示した既往津波の断層モデルを基本とし、走向角および傾斜角を(基本±σ)としてばらつきを設定した。
σは地震観測記録(メカニズム解)の統計量からそれぞれ10°と5°に設定した。
図2に東北地区の太平洋沿岸部における1896 年明治三陸地震による津波を対象とした解析結果のうち最大波高分布を1例として示す。この図から、走向角を-10°から+10°に変化させた場合には、最大値を示す赤い部分が南に移動していくのが分かる。また、傾斜角を-5°から+5°に変化させた場合には、最大値を示す赤い部分が広がっていくのが分かる。これらの結果より、いずれのパラメータも津波波高に及ぼす影響が大きいと言える。
(2) 津波伝播のパラメトリック解析
津波高さに及ぼす波源パラメータの影響を把握するために、東北地方および東海地方の太平洋沿岸部のサイトを例に、既往の波源モデルを基本としたパラメトリック解析を行う。パラメータとしては、特に影響が大きいと予想される断層の走向角および傾斜角をパラメータとする。
3.3.1 東北地方太平洋沿岸の津波解析結果
1896年明治三陸地震および1933年三陸地震の基本断層モデルを基に、それぞれ走向角を-10°から+10°に、また傾斜角を-5°から+5°に変化させたときの津波の海面初期変位を図 3.15 およ び図 3.16 に示す。走向角を-10°から+10°に変化させることで津波の初期変位そのものが反時計周りに回転するのが分かる。また、1896 年の地震断層では、傾斜角を-5°から+5°に変化させる ことで水位上昇を示す赤い部分が色濃くなり、1933 年の地震断層では赤い部分よりもむしろ水位 降下を示す青い部分が広がっているのが分かる。この違いは、1896 年が逆断層型で 1933 年が正断層型であることに起因する。いずれにしても、傾斜角は、初期水位に大きく影響することが分かる。 図 3.17 と図 3.18 に各地震による津波の最大水位分布を示す。これらの図から、走向角を-10°から+10°に変化させると沿岸部における水位上昇量が大きい赤で示した範囲が南方に移動していくのが分かる。また、傾斜角を-5°から+5°に変化させると赤で示した範囲が広がっていくのが分かる。
図 3.19 と図 3.20 に各地震による津波の発電所近傍の最大水位分布を示す。本サイトは三陸の入り江に位置しているため、走向角および傾斜角を変化させても湾付近の水位上昇量の差は小さい。図 3.21 に示した沿岸部評価範囲内の最大水位は、1896 年の地震津波の解析ケースでは 1.6mから 2.0mの幅で変化しており、また、1933年の地震津波の解析ケースでは 1.0m から 1.4m の幅で変化する結果となった。表 3.5 に各解析ケースの解析結果一覧を示す。 次に、図 3.22 に示した評価地点における各解析ケースの津波水位の経時変化を図 3.23 および 図 3.24 に示す。図中には、評価地点③、⑥、⑧を例として示した。いずれの地震、評価地点においても共通して、傾斜角の-5°から+5°の変化に応じて、水位経時変化の振幅が大きくなっていることが分かる。また、1893 年の地震津波では引き波が最初に到達し、1933 年の地震津波では押し波が最初に到達している。これは、既述したように両地震断層のタイプ(逆断層と正断層)が 影響することが一般的に言われている。 図 3.21 に示した発電所近傍の沿岸部の最大水位分布を図 3.25 と図 3.26 に示す。走向角を一定にして傾斜角を変化させると最大水位分布は平行に推移しているのが分かる。また、発電所近傍の防波堤内は、防波堤外に比べて水位変化が小さくなっているのが分かる。図 3.27 と図 3.28 に 最小水位分布を示す。水位変化は最大水位と同様の傾向であった。




3.4 考察
本作業で実施したパラメトリック解析では、断層の幾何形状に関するパラメータのうち、走向角および傾斜角を選定して解析を行った。各パラメータの変動幅は、地震観測記録に基づく統計量から走向角は基本±10°、傾斜角は基本±5°に設定した。近地津波を対象とした場合、これらのパラメータはいずれの海域においてもサイト沿岸の津波波高に及ぼす影響が大きいことがわかった。また、遠地津波を対象とした場合には、いずれの海域においても走向角および断層位置がサイト沿岸の津波波高に及ぼす影響は小さいことがわかった。特に、近地津波においては、津波波源の不確定要因として走向角および傾斜角は重要な因子であり、津波ハザード評価においても十分考慮する必要がある。また、これ以外のパラメータについても、今後検討しておく必要がある。

5.結論
既往津波の断層モデルを基本に断層パラメータを変化させた津波伝播のパラメトリック解析では、断層の幾何形状に関するパラメータの影響を定量的に把握するために、既往の研究でも特に影響が大きいと考えられる走向角および傾斜角を選定し、これらを変化させた津波伝播のパラメ トリック解析を実施した。対象サイトは、東北地区および東海地区の太平洋沿岸部とし、それぞ れ既往津波の断層モデルを基本とし、走向角および傾斜角を(基本±σ)としてばらつきを設定した。σは地震観測記録(メカニズム解)の統計量からそれぞれ 10°と 5°に設定した。その結果、走向角を変化させた場合には、最大波高の分布が沿岸部に沿って大きく移動することが分かった。 また、傾斜角を変化させた場合には、津波の振幅に大きく影響することがわかった。これらの結果より、いずれのパラメータも津波波高に及ぼす影響が大きいといえる。