原発の安全性を求める福島県連絡会(代表早川篤雄)は、2005年5月10日に東電に対して「チリ津波級の引き潮、高潮時に耐えられない東電福島原発の抜本的対策を求める申し入れ」をしている。
この申し入れ書では土木学会2002とチリ津波級を前提に、それでも海水ポンプが高潮(押し波)の際に水没することを指摘している。また、東電が福島第一・6号機について定期検査時に内密に20cmかさ上げ工事をし、福島第二海水ポンプについては「水密性を有する建物内に設置されているので安全性は問題はない」と回答してきた経緯も述べられている。
2005年時点では既に2002年長期評価は公表され、また、東電トラブル隠し(2002年8月)が社会問題となった後である。仮に規制権限が行使され、長期評価に基づく津波試算が行われ、対策工事が計画・実施されていた場合、地元住民の申し入れは「チリ津波級」にはもちろん留まらなかったことになり、海水ポンプの対策ももちろん不可避であった。10メートル盤上の施設だけを防御する「南側のみ防潮堤」などに留まった蓋然性など認められない。
最判令和4年6月17日は、
国が規制権限を行使しても ⇒ 東電の対策は南側のみ防潮堤
となった蓋然性が高いなどとするが、
国が規制権限を行使した場合 ⇒ 技術基準に適合する対策
かつ
地元同意が得られる対策
となった蓋然性が高いのである。
「南側のみ防潮堤」が「技術基準に適合」かつ「地元同意が得られる」対策であったのかが問われなければならない。そして4メートル盤の海水ポンプの水没を前提とする「南側のみ防潮堤」は「技術基準に適合」するはずなどないし、地元自治体や地元住民の「地元同意が得られる」となるはずなどないのである。
国が規制権限を行使した場合
⇒ 4メートル盤の海水ポンプの浸水も防御できる対策も同時に行われ た蓋然性が高い
のである。
仮に10メートル盤上は「南側のみ防潮堤」とし(地元・住民が同意するとは思われないが)、あわせて「4メートル盤上の浸水対策」がなされた場合に3.11津波による本件事故の発生を防ぐことができた蓋然性が高いかが吟味されなければならない。
この時の「4メートル盤上の浸水対策」は大きく分けると「水密化」路線とドライサイト路線(防潮堤等路線)に分かれる(両立が本来であるが)。
「水密化」路線となると考えた場合、10メートル盤上は「水密化」を否定しながら、4メートル盤上は「水密化」の着想可能性を許容する点で矛盾・ダブルスタンダード・ご都合主義となる。4メートル盤上の施設を防御するのに「水密化」をするのであれば、10メートル盤上の施設を防御する際にも「水密化」も行われると考えるのが自然である。
最高裁のようにドライサイト原理主義となる場合は、4メートル盤の浸水対策も防潮堤等によることが論理的である。4メートル盤上に、高さ9メートルの津波に備える防潮堤が設置されることになろう。この防潮堤が4メートル盤上(及び既設防波堤等もかさ上げされるであろう)に設置される場合、10メートル盤上の浸水も大いに軽減されることになり、本件事故が発生しなかった蓋然性は高い。

東電も平成23年2月14日福島地点津波対策ワーキング(第4回)において既設防波堤の嵩上げと4メートル盤上を囲うように防潮堤を構築することを検討していた。