非常用復水器の設定変更工事と設置変更許可申請

  添付書類十の安全解析結果に有意な影響を与えるような変更も「安全上重要な変更」であり,設置変更許可申請が必要となるとされている。

 そして福島第一の設置許可申請書添付書類十では,外部電源喪失の場合など多くの安全解析において,SRVによる減圧とHPCIによる水位回復が分析されており,ICについては,主蒸気管破断事故など減圧が発生する場面にしか見当たらない。

 平成22年7月の非常用復水器の設定値変更は,添付書類十の安全解析に影響を与える変更ではなのか,炉規法に基づく設置変更許可申請がなされ,規制庁による審査を受ける必要があったのではないか。このような規制庁における審査がなされることで,運転員のイソコンについての知識・技量も増していったのではないかと思われるし,あるいは,イソコン優先起動への設定変更がなさずにSRVとHPCIにより3.11津波に対峙することにより2号機・3号機程度の時間稼ぎはできたのではないか,あるいは定期検査を終えることなく稼働停止のまま3.11を迎えたのではないか。

 久木田豊・渡邉憲夫「福島第一原子力発電所1号機において地震に起因する冷却材漏えいが事故の原因となった可能性があるという指摘についての検討について」(日本原子力研究開発機構 2014.11)は「IC の作動設定値変更に関する検討:2009 年の事象(タービンバイパス弁の故障に伴う SRV の作動)を受けて 2010年7月の定期点検時において原子炉圧力高スクラム設定値 が変更され(7.27 MPa → 7.07 MPa)、併せて IC の作動設定値が 7.27 MPa から 7.13 MPa に、また、SRV の手動制御範囲も 6.37~7.26 MPa から 6.27 MPa~7.06 MPa に変更され たが、これらの変更にあたってどのような検討がなされたかが明確にされていない。 また、これら変更の際に当時の規制機関であった原子力安全・保安院がどのような対応を取ったのかについても不明である。これらの変更は、手順書において数値自体の改訂はなされたものの、操作手順に反映されていない特に、IC の作動設定値の変更は原子炉スクラムから全電源喪失までに間のプラント挙動に大きな影響を及ぼすとと もに、設置許可申請書の安全解析における前提条件が変わることも意味するため、よ り慎重な検討がなされ変更の事実とその影響が関係者に周知されるべきであったと考える。IC を有する敦賀-1 号機や国外プラントとの比較検討も含め、規制上の観点から これらに関する今後の調査分析を行う必要がある。」とし,イソコンの設定値変更が「設置許可申請書の安全解析における前提条件が変わる」としている。炉規法における無許可変更,さらに電気事業法の工事計画や事前届出の遺漏,使用前検査を経ずに稼働させたなどの手続違背が存するのであれば大いに問題であると考える。