
■東電プレスリリース平成22年6月17日「福島第一原子力発電所2号機における原子炉自動停止について」
1.事象の発生状況
平成22年6月17日午後2時52分頃、運転中の福島第一原子力発電所2号機(沸 騰水型、定格出力78万4千キロワット)において、「発電機界磁しゃ断器*1トリップ警報」が発生し、発電機の保護装置が作動して発電機が停止したため、タービンならびに原子炉が自動停止いたしました。また、この事象にあわせて当該プラントの電源が停止し、非常用ディーゼル発電設備が自動起動するとともに、原子炉へ給水するポンプが停止したことから、原子炉の水位が一時的に低下しましたが、代替のポンプである原子炉隔離時冷却系を起動して給水を行い、現在、原子炉の水位は通常の範囲内で安定しております。
■東電プレスリリース平成22年7月6日「福島第一原子力発電所2号機における原子炉自動停止に関する調査結果について」
2.調査結果
調査の結果、以下のことがわかりました。
(1)プラント停止に係る調査関係
・発電機から受電するプラントの常用系電源の所内側しゃ断器A、B系が同時に動作し、「切」状態になったこと。この際に、外部電源側のしゃ断器が入らず、外部電源からの受電に切り替わらなかったためにプラントの常用系電源2系統が停止したこと。
・プラントの常用系電源の停止により、励磁制御装置の冷却ファン*5が停止したため、発電機界磁しゃ断器が動作して「切」状態になり、発電機が自動停止したこと。これに伴いタービンが自動停止し、原子炉も自動停止したこと。
・プラントの常用系電源が停止したことから、原子炉へ給水するポンプが停止し、原子炉の水位が一時的に低下したこと。
・原子炉へ給水するポンプが停止したことから、代替のポンプである原子炉隔離時冷却系を手動にて起動して給水を行い、原子炉の水位を通常の範囲内に戻したこと。
・なお、プラントの常用系電源が停止したことにより、通常は常用系電源から受電している非常用交流電源も停止したが、2基の非常用ディーゼル発設備が自動起動し非常用交流電源が速やかに確保されたこと。



■一般社団法人日本原子力技術協会「東京電力福島第一原子力発電所2号機の原子炉自動停止について」
平成22年6月17日に東京電力福島第一原子力発電所2号機で原子炉が自動停止しました。この事象はある原因で発電機が停止して、原子炉が自動停止するとともに、非常用ディーゼル発電機が自動起動したものです。
東京電力プレスリリース 2010年7月6日
「福島第一原子力発電所2号機における原子炉自動停止に関する調査結果について」
発電機が停止するとどうして原子炉が自動停止するのでしょうか?
発電機は、蒸気がタービンを回転させることによって電気を発生させます。発電機自身が停止すると、タービンを回転させる蒸気を発生させる必要がなくなるので、蒸気の供給源である原子炉は自動停止するようになっています。
原子炉が停止すると発電所内で使う電気はどこから供給されるのでしょうか?
原子力発電所が運転されているときは、発電した電気の一部を発電所自身で使うようになっています。原子力発電所では原子炉が自動停止しても、冷やす、閉じ込めるという安全機能を確保するための電源が必要です。
このため、原子炉が自動停止すると外部(送電線)から供給される電源に自動的に切り替わります。
外部から供給される電源への切り替えがうまくいかなかった場合はどうなるのでしょうか?
福島第一原子力発電所2号機の場合はうまく切り替わりませんでした。
原子力発電所は外部から供給される電源にうまく切り替わらないこともあるという前提でつくられています。切り替えがうまくいかなかった場合には自動的に非常用ディーゼル発電機から電気が供給されます。また、非常用ディーゼル発電機は複数系列用意されており、緊急時での使用に備えて、定期的に作動確認が行われています。
非常用ディーゼル発電機で発電所の全部の電気を賄えるのですか?
非常用ディーゼル発電機からの電気を使用する場合は、止める、冷やす、閉じ込める機能に必要な電気が供給されるので、通常使用している給水ポンプなどは停止します。
給水ポンプが停止すると原子炉への給水はどうやって行うのですか?
原子炉の水位に応じて原子炉隔離時冷却系やECCS系(非常用炉心冷却系)が自動起動して原子炉に給水します。今回の福島第一原子力発電所2号機の場合は、運転員が定められた手順に従って原子炉隔離時冷却系を手動起動して原子炉の水位が確保されました。このため、原子炉隔離時冷却系やECCS系(非常用炉心冷却系)が自動起動することはありませんでした。この運転員の対応は常日頃の訓練の成果の現れと言えます。
安全審査の中ではどのように評価されていますか?
原子力発電所では、止める、冷やす、閉じ込めるという安全機能を達成するために必要な交流電源は、外部または非常用電源のいずれからも供給されるようにするなどの対策が施されることが確認されます。
また、発電所外部からの電源が喪失した場合などのさまざまな異常状態に対する対策についての解析・評価が行われ、発電所の安全設計の基本方針の妥当性が確認されます。 今回の東京電力福島第一原子力発電所2号機の事象は、これらの対策、解析・評価として想定されている範囲内のものでした。
■市民グループによる平成22年6月23日申入書(佐藤かずよし議員のブログより)
福島第一原発2号機の電源喪失・水位低下事故の情報公開と原因究明、再発防止を求める申入れ書
2010年6月23日
東京電力株式会社 社長 清水 正孝 殿
福島第一原発2号機の電源喪失・水位低下事故の情報公開と原因究明、再発防止を求める申入れ書
6月17日午後、貴社福島第一原発2号機で電源喪失・水位低下事故が発生しました。発端は、外部電源を取り入れる遮断機がバックアップを含め全4台が停止したこととされ、これにより外部電源遮断、発電機停止、原子炉自動停止、制御室停電、電源喪失で給水ポンプ停止、原子炉内水位約2m低下、隔離時冷却系ポンプによる注水で水位回復、急冷したとされ、あと40センチで高圧注水系ECCSが作動する事態で、非常用ディーゼル発電機が十数分間起動しなかったかの報道もありました。
貴社は事実経過を時系列に公表にしておらず、真相はまだ闇の中です。外部電源を取り入れる遮断機がなぜ全4台停止したのか、独立の系統で交流電源を確保するはずの2系統が同時に遮断ということは、一体何があったのか。原因は未だに不明で明らかにされていません。
原子炉緊急停止後、電源喪失が長引けば冷却水が給水されず、さらなる水位低下、燃料棒が崩壊熱により炉心溶融=メルトダウンという事態に至る可能性があり、深刻な事態と言わざるを得ません。
保安規定上、外部電源の喪失信号を受けた非常用ディーゼル発電機は10秒以内で自動起動し、緊急炉心冷却装置ポンプへ電源を供給するとされ、柏崎刈羽1号機系統機能試験データでは発電機起動7,6秒とされています。報道のような遅延があれば由々しき事態です。
今回の電源喪失事故は、原子炉自動停止により法律に基づき10日以内に再度報告しなければならない報告対象事故です。貴社は、遅滞なく事実と原因を明らかにすべきであり、隠蔽的対応は許されるものではありません。福島県も事態を厳しく受け止め、県民を不安に陥れたとして原因究明と再発防止を求めています。この際、私どもは以下申入れ貴社の速やかな回答を求めます。
記
1、福島第一原発2号機電源喪失・水位低下事故について、事実経過を時系列に明らかにするなど情報を早期に公開すること。
2、事故の原因究明を図り、関係法令に照らして適切な処置を行い再発防止対策を明らかにして、第一原発3号機などに水平展開するまで、福島第一原発2号機は再起動しないこと。
以上
ストップ!プルトニウム・キャンペーン 脱原発ネットワーク・会津 脱原発福島ネットワーク とめようプルサーマル!三春ネット 福島原発30キロ圏ひとの会 双葉地方原発反対同盟
■2010年7月20日佐藤かずよし議員ブログ原子炉外部電源全喪失事故レポート
d.外部電源全喪失に続く事態
(1)原子炉トリップ★
・「常用系電源2系統が停止」したことにより、「励磁制御装置」の冷却ファン停止。
・冷却ファン停止のため、発電機「界磁遮断器」が作動して「切」状態となり、発電機「自動停止」。
・発電機「自動停止」によりタービンが「自動停止」、続いて原子炉「自動停止」。この間3~4秒。
(2)原子炉内水位の低下★
・「常用系電源2系統が停止」したことにより、原子炉へ冷却水を戻す「給水ポンプ停止」、冷却水が戻らないため原子炉水位が低下。逃し安全弁も作動(複数回開閉)。
・原子炉水位低下(2:53、-800mm)により、代替ポンプの「原子炉隔離時冷却系」ポンプを「手動起動」して、「復水貯蔵タンク」より給水開始。自動起動のレベルには至っていないが、水位低下は予見されたので手動で起動した。【注:通常ECCS系および隔離時冷却系は、基準の水位レベルにより自動起動する設定】
・水位は2:58まで5分間ほど-800mmの横ばい状態であったが、以後水位回復。
・3:40には「原子炉隔離時冷却系」の自動停止レベル(水位「高」=L8)に達したため注水はストップされた。「原子炉隔離時冷却系」の流量は毎時95~100㎥。
(3)非常用ディーゼル発電の起動★
・「常用系電源2系統が停止した」ことにより、常用系交流電源から受電している「非常用交流電源」も停止したため、「非常用ディーゼル発電設備」が直ちに「自動起動」した。基準内(=10秒以内)の起動であった。一部に十数分後という報道があったが、間違い。
・その後( : )「非常用交流電源」により代替の復水ポンプが起動し給水開始?
・外部電源の復帰はA系統母線が3:25、B系統母線は3:55であった。
・A電源、B電源の復旧後、順次、復水ポンプ、給水ポンプを起動。
<中略>
b.所内遮断器A・B「切」でも外部電源「入らず」は、制御システム設計の問題ではないのか。
→◆Q2
・発電機系の故障で発電機停止となった場合、外部電源側遮断器「入る」になるはず。今回タイムラグと言っても「発電機停止時点」で別途、外部電源側遮断器「入る」のパス(信号)があっても良いのではないのか。今回は、この欠陥が大きな問題なのではないのか。
・「系統安定化装置」系の電源切替用「補助リレー」の正常作動ステップを聞いておく必要がある。
・発信パスが違うとはいえ「発電機停止時」に同じ対応をしないのは、制御システムの設計ミス。
・今回の事故(非常に稀)に非常用ディーゼル発電設備の故障(東電によれば非常に簡単に起きる)が重なっていたらどうなっていたのか。
・この制御システムの設計欠陥は他号機も一緒のはず。
・「対策」として「近づかない」「注意喚起の表示」でよいのか。意図的に人為ミスとしようとしているが、制御システムの問題でありシステム変更の対策が必要。
5.情報公開を求める★
・時系列と計器類チャートの公表
・作業フローの公表
・他号機の状態の公表
6.事故報告について
・今回の事故はおそらくわが国初の「外部電源全喪失事故」であり、『原子炉等規制法第62条の3の規定に基づき原子力事業者から規制行政庁に報告され、』『規制行政庁は同法第72条の3第2項の規定に基づき安全委原子力安全委員会に報告する』事故に該当することは間違いない。
・しかし東電も保安院も『法令に基づく報告対象ではない』としている。
・原因究明は、全く不十分である。中間報告でしかない。
・なんらかの文書があるのか、保安院に提出したのか、明らかにしていない。
・およそ事故経緯を物語る時系列も無ければパラメータの推移を示すチャートも、一切公開されていない。
■平成23年5月1日参議院予算委員会議事録より








【コメント】平成22年6月17日に2号機において外部電源喪失⇒原子炉スクラム停止の際にRCICの手動起動(及び主蒸気逃し弁:SRV)で乗り切った事案となるが、ECCS(HPCI)の自動起動(水位L-2)をさせないことに何ゆえか力点がおかれている。本来は水位L-2においてHPCIとRCICが同時に自動起動することで安全が確保されていることとの整合性が疑問である。RCICを手動起動してHPCIを自動起動させない手順書があるのであろうか。保安院は外部電源喪失時の対応を総点検すべきであったのではないか。
そして1号機にはRCICはない(ICは受動設備であり給水能力はない)。同様の事故が1号機で発生した場合にはHPCIとSRVで対応することになるはずであるが、同時期にIC優先起動への圧力高設定値変更工事が行われている。その際に平成22年6月17日のケースを踏まえた検討がなされていたのであろうか。外部電源喪失・スクラム停止は設計基準事象であるから、その際の対応を1号機に水平展開した上でIC設定値変更の是非を審査すべきであった。1号機の運転員は同部屋の2号機で発生した6月17日の事象を目の当たりにしていたはずである。1号機にRCICが無いことをどのように感じでいたのであろうか。この平成22年6月17日の事故の経験を活かしていれば半年後の平成23年3月11日を乗り切ることができた蓋然性が高い。
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■三省堂『推論 トリプルメルトダウン ー原子炉主任技術者が福島第一原発の事故原因を探るー』 松野元(著)