東電設計は平成20年8月に延宝房総沖地震による津波についても報告書を東電に提出している。

そこでは平成19年10月公表の茨城県の津波想定を受けて、土木学会2002モデルを北側に80キロ延長したモデルを採用している。これについて位置を南北に5か所、走向を±5度とした概略パラ・詳細パラを行うとともに、位置は土木学会2002が想定する南側に固定した場合についても詳細パラも行っている。
この土木学会2002の北側80キロ延長モデルが茨城県が採用する「断層数972の不均質モデル」をカバーしているのかは明らかではない。
なお、走向は相変わらず土木学会2002の±10度ではなく5度しか振っていない。






その結果、南側で13メートルを超える試算がなされている。なお、4メートル盤も浸水する。





ここで注目したいのは、位置を南側のみに限定した場合の詳細パラの結果である。これは茨城県津波想定を踏まえた土木学会80キロ延長モデルを土木学会2002の位置に固定した場合であり、現実に茨城県が採用した津波想定に基づくものに近いはずである。これによると1号機から4号機の取水ポンプの津波高さは4メートルを超えるし、敷地南側でも10メートルを90センチほど超えている。
なお、前述のとおり、茨城県は「断層数972の不均質モデル」で津波想定をしているのであり、このモデルによる試算と土木学会2002北側80キロ延長モデルによる試算のいずれが大きいのかは明らかではない。

なお、茨城県の津波想定の資料は下記で確認できる。茨城県の一般防災よりも高度の津波想定を原子力施設は求められるはずである。
■茨城沿岸津波浸水想定区域調査業務委託報告書(添田孝史【茨城県】津波想定報告書(2007)Level7データベースより)

茨城県の報告書では「茨城沿岸が津波の影響を受ける地震の発生場所として、日本海溝、千島海溝が考えられるが、ここでは甚大な津波被害を生じた明治三陸地震、昭和三陸地震、十勝沖地震などが 発生してきた。また、宮城県沖地震については、今後30年以内に発生する確率が非常に高 く(図 1.1-2)、地震の切迫性が指摘されている上、過去の宮城県沖地震に伴って大きな津波が発生したことも知られている。また、現在の技術水準では、いつ・どこで地震が発生 するか予測することは困難であり、その他の地震についても、発生までに時間的な猶予があるわけではない。これらの津波による被災地域の被害を最小限に抑えるための総合的な 防災対策を、緊急かつ計画的に進めることが必要である」「津波・高潮ハザードマップマニュアルでは、大規模な津波を伴う地震の発生が懸念され、 ハード面の防災対策とともに防災情報の提供などのソフト面の防災対策により住民の自衛力の向上を図り、被害の軽減(リスクの低減)の促進を目指すとしている(図 1.1-3)。津波に対する施設整備が実施されていても、想定を超える津波が発生する可能性があり、必ずしも安全とはいえない。また、津波がいつ発生してもおかしくない切迫した状況である一方、津波防御のための施設整備には多大な費用と時間を要する。そのため、ハード面の対策に加え、被災地の被害を最小限に抑えるためのソフト面の対策を考慮した津波防災対策が急務である」とされている。
なお茨城沿岸津波浸水想定検討委員会には今村教授,佐竹教授も委員となっている。

この茨城県津波想定を受けて東海第二では対策工事が行われ、3.11の際には辛うじて事故を防ぐことができた。
■茨城県HP「シリーズなるほど公共事業NO111」より

またJAEAも茨城県津波想定を受けて、東電設計に津波の調査解析業務を委託している。この報告書では長期評価試算も行われている。なお報告書の記載内容の東電平成20年試算よりも詳細である。福島第一・第二にもこのような完本版の報告書があるのではないか。
■添田孝史【JAEA】東海再処理施設の津波想定報告書(2008年)Level7データベースより




茨城県が切迫性があるとして現に一般防災に採用した津波想定があり、これを踏まえたとされる試算でも10メートル盤、4メートル盤の浸水が試算されていたのであるから、少なくとも津波警報発令時に敷地高を超える津波が発生する場合の手順書の整備(地震発生後はHPCI
・RCIC・SRVを駆使してすみやかな冷温停止を目指す(せめてICは止めない)、扉を開けっぱなしにしない、土嚢を積むなど)くらいの対策はすべきであったと言える。
そして国は東電試算を更に精査し、走向を更に10度ふるとか、不均質モデルで再計算をするなどし、その情報は地元に共有されるべきであった。そして平成22年の定期点検時に対策工を行わしめるべきであった。