飛騨川バス転落事件に関する名古屋高判昭和43年11月20日は以下の通り判示している。
第三 責任
控訴人らは、本件事故は本件国道の設置及び管理に瑕疵があつたことによつて生じたものであると主張するので判断する。
ところで、道路の設置または管理に瑕疵があるとは、道路が通常有すべき安全性に欠けていることをいうと解するのが相当であるから、当該道路において通常予測される自然現象(外力)に対し安全性を具備していなければならないものである。 したがつて、当該道路に対し交通の安全を阻害する土砂崩落等の災害が発生する危険があり、その危険を通常予測することができる場合には、当該道路の設置または管理に当たり、交通の安全を確保する措置が講じられなければならず、もしこれに欠けるところがあつたために事故が発生したとすれば、設置または管理の瑕疵によ る責任が生ずることになるから、以下、順次検討することとする。
<中略>
二 本件事故当夜の集中豪雨及び崩落等の予測可能性
ところで、前記のごとく、災害をもたらす自然現象(外力)に対し道路の設置または管理の瑕疵を問い得るためには、まず当該自然現象の発生の危険を通常予測できるものであることを要すると解するのが相当であるが、元来、発生するか否か、発生するとしでもその時期・場所・規模等において不確定要素の多い自然現象について、いかなる場合に発生の危険が通常予測できるといえるかが問題となる。
思うに、自然現象については、必ずしも学問的にその発生機構が十分解明されているとはいい難いが、自然現象のもたらす災害は、学問的にすべてが解明されなければ防止できないというものではなく、また、そのために防災対策をゆるがせにすることは許されないのであつて、その当時において科学技術の到達した水準に応じて防災の行動をとり得るものであり、防災科学はまさにそのような見地に立つて、自然現象発生の危険性を検討し防災対策を研究する総合的な学問の分 野である。そして、道路の設置・管理も当然このような防災科学の見地を取り入れて検討されるべきものである以上、当該自然現象の発生の危険を定量的に表現して、時期・場所・規模等において具体的に予知・予測することは困難であつても、 当時の科学的調査・研究の成果として、当該自然現象の発生の危険があるとされる定性的要因が一応判明していて、右要因を満たしていること及び諸般の情況から判断して、その発生の危険が蓋然的に認められる場合であれば、これを通常予測し得るものといつて妨げないと考える。
以下、右の見解により、予測可能性について検討する。
<以下、略>
【参考】
■秋山義昭「自然災害と予見可能性」(商学討究第52巻第2・3号)
■永野海「自然災害における責任判断をめぐる重要判例」
■本城勇介他「国家賠償法2条の瑕疵判例より見た 社会基盤施設の安全性と技術者の責任」土木学会論文集
■石橋秀起「営造物・工作物責任における自然力競合による割合的減責論の今日的意義」
■木村俊介「自然災害に係る道路の営造物責任に関する考察 -飛騨川訴訟判決とその後」信山社