■「課題別ディスカッション1」(地震動による重要機器の影響) に係る論点整理についてより
○事故時の運転操作について(30頁)
・津波襲来以降、吉田所長は(運転操作を)いわばアドリブでやったと明言してい る。
・また、EOPを使用していないとか、手順書通りに操作していれば、2,3号機は救 えたかも知れないといった指摘もある。
・保安規定では、原子炉圧力容器の熱負荷を考え、原子炉冷却材(原子炉水)温度 変化率が55℃/h以下という運転上の制限を定めている(柏崎刈羽の場合:37条)。一方、スクラム発生時には適用されないという記載もある(柏崎刈羽の場合:77条)。
・福島第一1号機では、保安規定の「55℃/h以下」を遵守するため非常用復水器(I C)を停止している。
<用語解説>
AOP:設計基準事故の範囲内の特定された事故毎に具体的な操作手順を示した手順 書(事象ベース手順書)。Abnormal Operating Procedures。
EOP:事故の起因事象に囚われず、観測される徴候に応じた手順を示した手順書(徴候ベース手順書)。Emergency Operating Procedures。 SOP:EOPの適用範囲を超える状態に至った場合(シビアアクシデント)に適用す 30 る手順書。Severe accident Operating Procedures。
(1)運転操作手順書(EOP)について(30頁以下)
委員の考え
・東京電力HD・新潟県合同検証委員会の報告書ではEOPを使ったとしている。一方、 事故時運転操作手順書の遵守状況の報告には、EOPを使った、あるいはそれで判断 したということは一つも書いておらず、内容に矛盾がある。実際には、EOPを使っ ていないのではないか。
・AOPに地震時対応の項目(第4編自然災害対策編第22章自然災害事故(大規模地震発生、津波発生))があるが、これをなぜ使わなかったのか。事故当時の対応を 見ると、自然災害対策編を参照していなかったと思っている。
東京電力の考え
○どの手順書を使用するかについて
・EOPを使用する条件(導入条件)は、原子炉がスクラムしたときや、スクラムして いないが格納容器内の温度や圧力が上がってきたという徴候が確認されたときなどとなっている。
・EOPの成立条件に至らない場合は、AOPで対応する。成立条件に至った場合はEOPに 移行し、さらに事象が進展してシビアアクシデントに至った場合はSOPの手順に移行する。
・EOP移行後の手順のうち、格納容器制御については、配管破断事故対応のAOPにも用意されているので、基本的にはAOPで対応する。EOPに記載の制限に到達した場 は、EOPにある格納容器制御で対応することとしている。
○今回の事故時の対応について
・原子炉スクラムが発生したため、まず、EOPを使用した。また、外部電源喪失によ り主蒸気隔離弁(MSIV)が閉止したため、AOPにある「MSIV閉」の手順に従って対応し、冷温停止に移行しようとしたが、全電源喪失により手順書通りの操作がで きなくなった。
・電源をすべて失い、手順書の想定を超えた状況で、何ができるのかを全ての手順 書や図書を集めてきて対応した。
・AOPの自然災害対策編には、スクラムした場合に原子炉を冷温停止まで持って行く手順は書いていないため、他の項目を引用することになる。
・中越沖地震を受け、自然災害対策編は、使用済燃料プールのスロッシングや火災警報対応に注力したフローになっている。外部への漏水対策として、サンプポンプなど建屋の排水ポンプを停止し、動作しないように操作スイッチ固定する手順になっている。今回の地震後は、そのように対応している。
・国に提出した福島第一1~3号機の事故時運転操作手順書の遵守状況の報告は、 事故当時に使った手順を書いたものではなく、実際に行った操作を振り返ってみ て手順書の適用状況を整理したもの。事故当時、どの手順書を使ったのかという記録はない。

(2)事故時の運転操作(保安規定適用)について(32頁以下)
委員の考え
・保安規定には、スクラム発生時には原子炉冷却材(原子炉水)温度変化率が55℃/h以下という運転上の制限は適用されないという記載があるが、今回適用していない。
・この「適用されない」という規定を適用すれば、非常用復水器(IC)を止める必要は無かった。福島第一1号機では、保安規定の「55℃/h以下」を遵守するため非常用復水器(IC)を停止したとしているが、補機操作員が原子炉圧力の下がりが大きいので漏えいの可能性を指摘したと聞いており、別の理由があったのではないか。また、止めなければ津波が来る前に冷温停止状態(原子炉水の温度が100 ℃以下)に持って行けたのではないか。
東京電力の考え
・運転員は、スクラム発生時には55℃/hを守らなくてもよいという状況があることは知っていたと思う。電源があれば原子炉を冷温停止ができるので、55℃/hを守るという選択をしていたと思うが、津波の後にSBOになるとわかっていたら非常用復水器を止めなかったと思う。
・非常用復水器(IC)の能力は55℃/h以上で原子炉水の温度を下げることを知って いたので、止めたり弁を開けて動かしたりしていた。
・運転員は、事故を受け、津波に関する注意報、警報が出た段階で対応することと し、大津波警報が出たら原子炉を止めることとした。現在は、津波が襲来するとなったら、原子炉を減圧して満水にするという手順を取ることになっている。
【疑問点】(10頁)
東京電力の保安規定に記載されている55℃/時の規則を非常時(事故時)に適用するのは無意味であり,かえって危険であ ると思われる。この規則を柏崎刈羽発電所にも適用していく予定か。
【東京電力の説明】
福島第一では,スクラム後の対応として運転手順にもとづき55℃/hを遵守して原子炉の冷温停止に向けた作業を行っておりました。これは津波により全ての電源及び注水・冷却手段を失うことになるとの予見ができなかったためであり,万一,過酷事故に至るような事象では手順上も55℃/hの制限はありません。この考えは柏崎刈羽原子力発電所でも 踏襲されています。なお,福島事故の教訓を踏まえ,柏崎刈羽原子力発電所では,外部事象・内部事象な ど様々な想定を行い,事象の状況に応じた適切な運転手順を策定しております。一例として大津波警報が発生し,高圧系のポンプが機能を喪失したような場合においては,この段階で過酷事故に至ることを想定し,55℃/hを考慮することなく急速減圧を行い,低圧系注水に移行することをとしております。 今後,柏崎刈羽原子力発電所の緊急時対応手順を含むソフト対策の説明時に補足さ せて頂ければと思います。
1号機 IC 操作: (1) 温度降下率55ºC/hr以下という制限の科学的な根拠と意味は何か説明されたい。
<東京電力回答>
原子炉冷却材温度変化率 55℃/h 以下という制限は、原子炉圧力容器に対して、昇温・降温(起動停止)時の温度変化に伴う熱疲労を小さくするとの観点から、米国機械学会の ASME SectionⅢの値を参考にして、従来より設定している値でございます。
(2) 東電の保安規定に、この制限を適用すべき「適用すべき運転状態」を明記していないのは問題ではないのか。適用すべき運転状態とはどのようなものか、「適用すべき運転状態」 をどのように運転員に教育してきたのか、説明されたい。 ちなみに、設計時に想定しているトラブルや事故(DBA)、たとえば大LOCA時にECCS が作動するときなどに対する冷却材の温度変化率は、55ºC/hr制限をはるかに超えている。
<東京電力回答>
保安規定上、原子炉の状態が起動、高温停止、冷温停止(65℃以上)において原子炉冷却材温度 変化率 55℃/h を運転上の制限とすることを明記しています。つまり、適用すべき運転状態は「原 子炉の温度が変化する全ての状態」となります。 そのため、通常の原子炉の起動や停止の際にもこの温度変化率 55℃/h を遵守するよう操作を行っております。 以上を前提として、事故時操作手順書の中では、冷却材喪失などプラントの異常兆候が確認された場合には、原子炉圧力を急速に減圧する操作が定められており、この手順書には注意書きで「炉水温度変化率 55℃/h にとらわれる必要はない」との記載があります。運転員への教育については、個人または班単位で運転訓練センターや発電所内において、机上及びシミュレータ訓練を繰り返し行っております。
■柏崎刈羽原子力発電所の安全対策の確認議論の状況の整理(令和3年度第3回技術委員会資料 No.6)より
イ 原子炉冷却材温度変化率 55℃/h(54頁)
保安規定には非常事態や緊急事態の時は(原子炉冷却材変化率)55℃/hに拘束される必要はないとある。大津波警報が出なくても、異常と判断し55℃/hに拘束されずに運転をし続けるという選択肢もあったと思う。今回、大津波警報が出ない限りは55℃/hに拘束されずとっさの判断を運転員がするということはないのか。基本的に熱疲労に関することを考えていると思うが、低温の場合は別だが高温度では大きな問題はない。中央操作室の状況とか当直長の考えでそれを自由にアドリブ的な運転をしてもいいのかどうか。そのようにしてあるべきだと思うがどうなのか。 (令和2年度第3回)
大津波警報が発令された場合と全交流電源が喪失した場合は、55℃/hを超え た冷却率で温度を下げてもよいということを手順に追加している。 全交流電源喪失時など、蒸気を使って冷却する設備とSR弁を使って減圧し低 圧にするという手段が限られてくる場合には、早い段階で除熱する手順としている。
ウ 運転手順書の移行判断(54頁)
福島第一原発のAOPに地震時対応の項目(第4編自然災害対策編 第22章 自然災害事故)があるが、事故当時の対応を見ると、これを参照していなかったのではないかと思っている。柏崎刈羽原発では、どのような場合に地震時対応の項目を使うのか、ガイドラインのようなもので明確になっているのか。 (令和2年度第3回)
柏崎刈羽原子力発電所では、大規模な地震または、津波注意報以上が発令発生した場合、事故時運転操作手順書(事象ベース)の(自然災害「大規模地震 /津波発生の場合」)を使う。
大規模な地震:柏崎、刈羽、西山、出雲崎のいずれかにおける震度が5弱以上または、地震加速度が65gal以上であった場合 津波注意報以上:津波注意報、津波警報、大津波警報が発令された場合
事故時運転操作手順書(事象ベース)における(自然災害「大規模地震/津 波発生の場合」)の対応として、原子炉の制御、人身災害対応、設備の健全性確認、火災・災害対応、設備漏えい対応のパートがあり、運転員はこの対応手順に従い対応を実施する。 また、原子炉スクラム後には事故時操作手順書(徴候ベース)の「RC スク ラム」項目を並行して使用し、徴候に応じた原子炉制御操作を徴候ベース手順書で、地震/津波事象特有の対応パートは事象ベース手順書で実施する。 (令和 2 年度第 5 回 資料 No.5-1 P12[288])



■福島第一・保安規定より

