車検が通っていない車は運転できない

「原発のテロ対策」で原子力規制委が守ったもの/厳しい判断は自らへの「喝」」(2019年6月13日 京都大学大学院

エネルギー戦略研究所 シニアフェロー 竹内敬二)に以下の言及がある(以下、抜粋)。

 ・更田委員長はこう発言した。
 「出席者のお一人(電力会社の人)が、見通しが甘かったとおっしゃっていたけれども、それは工事に対する見通しが甘かっただけでなく、規制当局の出方に対しても甘かったのではないかと私は思います。差し迫ってきて訴えれば、何とかなると思われたとしたならば、それは大間違いだと思う」

 ・実は、複数の規制委メンバー自身も妥協的な案を考えていた。それは「基準不適合であると認識する」一方で、杓子定規に「停止」というのではなく、「不適合状態での運転をしばらく(定期検査まで)認める」というものだ。規制委もメンツがたち、電力会社にとっては、当面の運転継続で混乱は少ない。しかし、更田委員長はそういう中途半端な妥協を認めなかった。

原子力の稀な大事故をどこまで想定するかは難しい。電力会社による「期限を伸ばして欲しい」の背景には、「テロによる混乱など、短期間のうちではどうせ起きないだろう」という意識がある。

福島事故の3年前の08年、東京電力の内部の検討で「福島では最大高さ15・7メートルの津波がありうる」と予測された。担当社員が幹部に伝えたが、対策には生かされなかった。これも「まあ、起きない」と思われたのだろう。

今議論になっている航空機の衝突などを含むテロ対策は、米原子力規制委員会(NRC)では「B5b」の規制項目として知られる。

 2001年の米国における同時多発テロ後に整備された。B5bについては、日本の保安院も米国の導入後、2度渡米し、NRCから説明を受けたが、日本には導入しなかった。日本の想定には関係ないと考えたからだという。
 しかし、ここが重要なことだが、米国に続いてもし日本にB5bが導入されていたらどうなっていたか。B5bでは、使用済み燃料プールの破損に備えた外部注水ラインの敷設や、仮にプールを冠水できない場合であってもスプレーによって使用済み燃料を冷却するように求めているなど、施設全体に高いレベルの安全対策を求めている。福島の事故で起きたことだ。
 したがって、日本の原発にB5b規制が導入されていたら、福島事故の拡大はかなり防げていたとみられているのである。将来の極めてまれな空想的事故への備え云々の話ではない。規制導入を見送ったことが、すでに起きた大被災の一因だったかも知れないという話だ。「どうせ起きないだろう」は何度も恐ろしい結果を招いている。