東北電力「Ⅰ.地震に起因する津波の評価」より
女川原発では現在は、明治三陸地震の津波マグニチュードについては阿部(2003)に基づいて8.6を採用している。土木学会2002は8.3であった。阿部(2003)とは、阿部勝征「津波地震とは何か」(月刊地球Vol25、海洋出版2003年)のことである。3.11以前から明治三陸地震の津波マグニチュードについては過小評価ではないかとの指摘もあった。綾里村の38.2メートルから逆算をすると津波マグニチュードは9.0となる。土木学会2002ではパラメータスタディを更に尽くし、かろうじてこれを上回る試算を得ている。
この明治三陸津波マグニチュードの経緯については島崎邦彦「葬られた津波対策をたどって――3・11大津波と長期評価 第9回」(科学HP)などに詳しい。
そして現在は東北電力は土木学会2002の領域③よりも南にも波源位置を10~20キロずつスライドさせたパラスタを行っている。その結果、最大水位は領域③よりも南側で試算されている。
ところで・東電津波試算の怪その2で指摘したとおり、東北電力では3.11以前に既に領域③よりも南に明治三陸地震をスライドさせた試算は行っていた。
東北電力従業員田村雅宣氏の東京地検に対する平成24年12月21日付供述調書添付の「津波バックチェックに関する打合せ(平成20年3月19日火力原子力土木G)」によると、東北電力は津波ハザード解析の結果として「宮城県沖と福島県沖をまたぐ波源」においてはO.P.+18.16m(Mw8.3)、O.P.+22.79m(Mw8.5、走向+5°)とある(敷地高はO.P.+14.8m)。
明治三陸モデルを領域③よりも南にスライドさせると福島第一だけでなく、女川原発も敷地高を超える津波となる。だから、長期評価の採用を阻止し、あるいは遅らせることが必要であった。津波対策ではなく、津波対策をしなくてよい対策に、電力会社等が集まって知恵を絞っていたのである。
この東北電力の試算では領域③を南に動かすだけでなく、津波マグニチュードを8.5とした場合も試算している。阿部(2003)を意識したものではないか。なお土木学会平成23年9月「確率論的津波ハザード解析の方法」では「固有地震のマグニチュードを1つの値に限定しているが、現実には1つの値に限定されないと考えられること、また津波に対し てマグニチュードの影響が大きいことからマグニチュードの分布幅を考える」とした上で「マグニチュードの分布幅として基本的に 0.3 と 0.5 を設定した」としている(11頁)。
前述の島崎先生の論稿には津波マグニチュードと水位への影響について簡易予測値が記載されている。パラメータスタディにおいて明治三陸の津波マグニチュードを8・5あるいは8.6さらには9.0として試算すれば福島第一においても東側からも10メートルを超える津波となるであろう。このような計算は行わなくても結果は自明であろうし、内部的には試算はしていると思われる(確率論においても試算をしているのではないか)。
他方で東北電力は現在でも走向は+5度に留めているようである。しかし、東北電力東通原発「地震に起因する津波の評価 2 津波地震」は「波源特性の不確かさの考慮」として「走向」を「基準」「基準±5度」「基準+10度」を採用している(19枚目)。そして「基準+10度」で最大水位を算出している(20枚目)。なお申請時においても「基準+10度」を用いたようである(28枚目)。(東電東通は5度しかふっていない)。
このようにパラメータスタディも用いる数値で勿論最大水位も変化する(この数値を恣意的に制限することで、対策を採らなくてよい対策が可能となる)。だからこそ、試算で得られた津波に対して更に安全裕度をもった対策が必要となるのである。「南側のみ」からしか津波が遡上しないから南側だけ防潮堤を建てたとする最判R4.6.17は滑稽ですらある。