最判令和8年1月9日において三浦守判事は少数意見の中で、自主避難者の自主避難継続の選択の合理性について以下のとおり述べられている。
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(2)ア 放射線障害防止の技術的基準に関する法律(以下「放射線障害防止法」と いう。)は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準の斉一を図ることを目的とし(1条、2条2項)、上記技術的基準を策定するに当たっては、放射線を発生する物を取り扱う従業者及び一般国民の受ける放射線の線量をこれらの者に障害を及ぼすおそれのない線量以下とすることをもって、その基本方針としなければならないものとした上で(3条)、放射線障害の防止に関し学識経験のある者のうちから任命される委員で組織する放射線審議会を設置し(4条、7条2項)、関係行政機関の長が上記技術的基準を定めようとするときは、同審議会に諮問しなければならないものとする(6条)。
放射線審議会は、国際放射線防護委員会(ICRP)の1990年(平成2年)の勧告を踏まえ、公衆の被ばくに関する限度に関し、実効線量については年1m㏜とするなどとして、これを規制体系の中で担保することが適当であるとし(平成10年6月10日同審議会決定「ICRP1990年勧告(Pub.60)の国内制度等への取入れについて(意見具申)」)、関連する法令の規定は、これに従って技術的基準の斉一が図られている。
イ 避難指示区域は、原子力災害対策特別措置法に基づき、住民の避難や立入りの制限等に関する指示がされた区域であるが、その設定及び解除については、住民が1年間に被ばくする放射線量が20m㏜を超えるか否かが、一つの基準とされている(平成23年12月26日原子力災害対策本部決定「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」等)。
上記避難等に関する指示は、原子力災害対策本部長が、緊急事態応急対策等を的確かつ迅速に実施するため特に必要がある措置として、地方公共団体の長に対して行ったものであり(平成24年法律第47号による改正前の原子力災害対策特別措置法20条3項、同改正後の同条2項)、その一つの基準とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準ではなく、公衆の被ばくに 関する限度について、放射線障害防止法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものでもない。
ウ 「平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(以下「放射性物質環境汚染対処法」という。)は、本件事故により放出された放射性物質(以下「事故由来放射性物質」という。)による環境の汚染が生じていることに鑑み、上記汚染が人の健康又は生活環境に及ぼす影響を速やかに低減することを目的として、事故由来放射性物質により汚染された廃棄物の処理及び土壌等の除染等の措置等について規定する。
そして、放射性物質環境汚染対処法に基づく土壌等の除染等の措置は、除染特別地域(環境大臣が同法25条1項に基づき指定する地域をいう。以下同じ。)及び汚染状況重点調査地域(環境大臣が同法32条1項に基づき指定する地域をいう。 以下同じ。)において実施されるが、このうち、汚染状況重点調査地域の指定及び同地域内の除染実施区域の指定に係る「環境省令で定める要件」(同法32条1 項、36条1項)については、その地域又は区域の追加被ばく線量が年間1m㏜未満であることを基準として、これを空間線量率に換算し、1時間当たり0.23μ㏜未満の放射線量と定められている(汚染廃棄物対策地域の指定の要件等を定める省令(平成23年環境省令第34号)4条、5条)。
汚染状況重点調査地域の指定等の要件とされる上記放射線量は、法令に基づく放射線障害の防止に関する技術的基準であり、放射線障害防止法6条に基づく環境大臣の諮問に対する放射線審議会の答申(平成23年12月13日付け)に基づいて定められている。これは、公衆の被ばくに関する限度について、同法3条の定める基本方針の下に技術的基準の斉一が図られたものということができる。
エ 環境大臣は、平成24年2月までに、福島県の41市町村(いわゆる浜通り及び中通りの全ての市町村と会津地方の一部の町村)の全域を除染特別地域又は汚染状況重点調査地域に指定したが、そのうち、平成29年3月末日までにその指定を解除したのは5町村にとどまる。この時点において、福島市、郡山市、いわき市及び南相馬市(同市は、本件事故当時における上告人の居住地である。)を含む36市町村に及ぶ広範囲の地域は、依然として、環境大臣が、法令に基づき、その地域内の事故由来放射性物質による環境の汚染が著しいと認める地域、又はその環境の汚染状態が上記環境省令で定める要件に適合しないと認め若しくはそのおそれが著しいと認める地域であったということができる。
平成29年3月までに、福島県内の各市町村において除染が実施され、災害公営住宅の整備、公共インフラの復旧等が進んでいたとしても、上記のような環境の汚染状態が続いている居住地から避難している被災者にとって、その避難の継続は、放射線障害防止法3条の定める基本方針に照らし、自らの受ける放射線量が障害を及ぼすおそれのないようにするという点で、法令に基づく合理的な根拠があるとい うべきである。
もとより、区域外避難者は、自らの意思で元の居住地等に帰還することもできるが、避難を継続するか帰還するかは、ひとえに個人の選択の問題である。本件事故により放出された放射性物質が広く拡散し、当該放射性物質による放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されたとはいえない状況において(東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律1条参照)、法令に基づく合理的な根拠をもって避難の継続を選択する者について、区域内避難者と異なり、平成29年4月以降は、当該被災者の具体的な事情を考慮するまでもなく、一律に、応急仮設住宅を使用する必要性を否定すべき理由はない。