東京電力福島第一原子力発電所における事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2025年版)案

 令和7年6月27日に開催された第51回東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会 では、中間取りまとめ案が公表されている。

■ 第51回東京電力福島第一原子力発電所における事故の分析に係る検討会 令和7年06月27日 資料3-1:東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2025年版)(案)のポイント[原子力規制庁]【PDF:1.3MB】

東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2025年版)(案)(本文)[原子力規制庁]【PDF:1.9MB】

東京電力福島第一原子力発電所事故の調査・分析に係る中間取りまとめ(2025年版)(案)(参考及び別添資料)[原子力規制庁]【PDF:23.6MB】

 もっとも非常用復水器についての検討が極めて不十分である。

 取りまとめ案では、

東京電力は IC の機能が組み込まれたシミュレータを有してお らず、IC が動作した場合のプラント挙動を訓練等で経験していなかったことを踏ま えると、運転員が実際の IC が作動した場合のプラント挙動等を速やかに把握するこ とも同様に困難であったと推定している。 さらに、事故当時に使用されていた事故時運転操作手順書については、IC が自動 起動した場合などの具体的な挙動・操作に係る記載等が不足していたため、運転員が 速やかな確認動作等を行うことは難しかったと推定している。 また、調査チームは、事故以前、IC を備えた原子炉を保有する日本原子力発電株式会社や米国の原子力事業者からプラント挙動等に関する情報共有がなされていな かったことを踏まえると、事業者間等での情報を得る必要があったと考える」と教訓として「 蒸気等を用いた実条件による性能確認等を行うこと、又は、安全上の理由等で実条件での性能確認ができない場合であっても、シミュレータを用いたり、他の原子力事業者から情報を得るなどして、プラント挙動を理解できるよう にすること 非常時(異常が発生した状態)においても効果的に当該設備を活用できるよ う手順書の整備、運転員への伝達及び教育訓練等を行う必要があること」とはしている。

 他方で「津波襲来までの期間、事故時の運転員の操作については、操作手順書に基づき 確実に実施され、原子炉圧力に係る記録によると、IC による原子炉圧力が確認できて おり、ICは所定の機能を発揮し原子炉圧力は制御できていたと考える」としている。しかし、事故時運転操作手順書のうち「第22章 自然災害事故」が全く存在していないかのように無視されていることが極めて不可解である。また55℃毎時の運転制限は保安規定においても緊急時には適用されないとされているにも関わらず、この点についても言及がない。

55℃の運転制限は適用されないこと

 平成22年にSR弁からIC優先起動に設定値が変更された経緯と妥当性についても言及がない。

■2010年7月非常用復水器(IC)の設定変更

 大津波警報が発令される大規模地震発生時にそもそもICで立ち向かうべきなのか、SR弁+HPCI(ないしRCIC)による対応をすべきではないか、炉を守るための55℃毎時の運転制限が課されるのか、なぜ第22章自然災害編の操作手順書が利用されなかったのかについて検討がないまま、革新型軽水炉に次世代非常用復水器を用いることだけが独り歩きしては事故の教訓を学んだとは言えない。また高経年化している既存原子炉について炉を守るためにECCSによる緊急冷却をためらうのであれば、外部電源喪失時に事故が発生する恐れがある。HPCIの位置づけ、HPCIとRCICの位置づけ、SR弁とICの位置づけ、55℃毎時の運転制限の位置づけについて福島第一原発事故を題材にしっかりとした検討がなされなければならない。