最高裁第一小法廷は同小法廷に係属していた原発避難者集団訴訟について令和8年1月22日付で上告不受理決定をしたとのことである。
【日本経済新聞】原発避難者訴訟、国の賠償責任否定が確定 最高裁
最高裁第二小法廷は令和4年6月17日に,国の責任を肯定した3つの高裁判決を破棄し,避難者の国家賠償請求を棄却する判決をした(三浦守裁判官の反対意見が付されている)。
その後,仙台高判令和5年3月10日の上告審が第三小法廷に係属していたが,令和6年4月12日に避難者側の上告を退ける上告不受理決定をしている(宇賀克也裁判官の反対意見が付されている)。
今回,第一小法廷が上告不受理としたことで一応は3つの小法廷で避難者側の上告が退けられたことにはなる。
最判令和4年6月17日は規制権限を行使していても,東電が設置する防潮堤は「本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたもの」(便宜上,南東主眼防潮堤という)となる可能性が高く,3.11津波を防ぐことはできなかったとだけ判示する拍子抜け判決であり,極めて評判が悪い。歴史上最悪の原発事故について国の責任を問う裁判において,そして国は何もしていなかったにも関わらず,そして3つの高裁判決が詳細な事実認定の上で国の責任を否定しているにもかかわらず,そして最高裁は下級審の事実認定に拘束される(民訴法321条1項)にもかかわらず,「規制権限を行使しても,南東主眼防潮堤になったから,3.11は防げなかった,だから何をしていなくても責任はないんだ」という残念な情けない恥ずかしい判示であった。
このような残念な判決は,後続する訴訟において良心的な裁判官のもとで早々に覆されると思っていたが,そうはならなかった。それまで国の責任を認める判決が多数と言える状況が様変わりし,国の責任を否定する判決が続出するようになった。最高裁恐るべしである。原発訴訟に関わっていない弁護士に6.17最判を見てもらっても,こりゃなんじゃ,という反応である。みんな6.17最判がおかしいことはわかっている。下級審裁判官も本当はみなわかっている。でも抗えない。
6.17最判後の下級審判決は,6.17最判との整合性を保つために論理破綻をしているものや,6.17最判をコピペするもの,6.17最判を補強することに躍起となるもの,6.17最判とは異なる主張をしているのに6.17最判を無理矢理あてはめるものなど見るに耐えない判決が続出する。
仙台高判令和5年3月10日は「遅くとも平成14年末には、電気事業法40条に基づき、被告東電に対し、長期評価によって想定される津波に対し、原子炉施設について適切な防護措置を講ずるよう命ずる技術基準適合命令を発すべき義務をも負うに至ったと認めるのが相当である」「津波による浸水により原子力発電所において炉心溶融に至る深刻な事故が発生する具体的な危険を防止するために法により与えられた規制権限を行使することは、経済産業大臣の義務であって、その権限の行使に専門技術的な裁量の余地はない」「経済産業大臣が技術基準適合命令を平成14年 末に発していれば、長期評価により想定される最大でO.P.+15m程度の津波 高さとなる想定津波を前提とし、かつ、「安全上の余裕」を確保した上で、防潮壁の設置、あるいは「重要機器室の水密化」及び「タービン建屋等の水密化」などの防護措置を講じ、本件津波に対しても、非常用電源設備等が浸水して原子炉が冷却で きなくなって炉心溶融に至るほどの重大事故が発生することを避けられた可能性は、 相当程度高いものであったと認められる」「技術基準適合命令を発していれば、被告東電は当然にこれらの措置を講じたと考えられ、また津波に対する原子力発電所の安全対策は、炉心溶融による重大事故を万一の場合にも防ぐため、本来、安全上の余裕をもって設計されるべきものである ことからすれば、1号機から4号機の主要建屋設置エリアの浸水高が、約11.5 mから約15.5mであり、同エリアの南西部の浸水高が、局所的に約16mから 約17mであったという本件津波(別紙5)が到来しても、上記の防潮壁の設置や水密化の措置により、非常用電源設備が浸水して機能を喪失し、全電源を喪失して 炉心溶融を起こすような重大事故の発生は、相当程度高い可能性をもって避けられ たはずであると認められる」「長期評価を前提に、経済産業大臣が技術基準適合命令 を発した場合、被告東電としては、速やかに、敷地の東側からも津波が遡上しないよう、防潮壁の設置や、重要機器室やタービン建屋等の水密化等の適切な防護措置 を講じた可能性は相当程度高いものということができる」「長期評価公表以降、経済産業大臣が適時適切に規制権限を行使していれば、 本件津波によって福島第一原発が炉心溶融を起こして水素爆発するなどという重大事故が起きなかった可能性は相当程度高かったと認められるのであり、安全対策を 講じさせるべき規制権限の行使を8年にわたり怠った国の責任も重大である」「その間、平成16年12月26日にスマトラ沖地震の津波によりインドのマドラ ス原発が冷却に必要なポンプ室が水没して運転不能になる深刻な事故を起こし、保安院は、この事故を契機に溢水勉強会で津波に対する原子力発電所の安全対策を検討し、平成18年には、施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性 がある津波を想定し、既設の発電用原子炉施設について津波に対する安全性を再評価する耐震バックチェックも行っていたのであるから、なおさら責任は重い」「経済産業大臣が、長期評価により福島県沖を震源と する津波地震が想定され、津波による浸水対策を全く講じていなかった福島第一原発において重大な事故が発生する危険を具体的に予見することができたにもかかわらず、長期評価によって想定される津波による浸水に対する防護措置を講ずること を命ずる技術基準適合命令を発しなかったことは、電気事業法に基づき規制権限を 行使すべき義務を違法に怠った重大な義務違反であり、その不作為の責任は重大で あるといえる」とまで浴びせ倒すように国を断罪する判断を示しつつ,「しかし、津波の想定や想定される津波に対する防護措置について幅のある可能性 があり、とられる防護措置の内容によっては、必ず本件津波に対して施設の浸水を防ぐことができ、全電源を失って炉心溶融を起こす重大事故を防ぐことができたはずであると断定することまではできない」「しかし、国家賠償法1条1項の適用にあたり、経済産業大臣が、電気事業法に基づく規制権限の行使を怠った義務違反の不作為によって、違法に損害を加えたと評価することまではできないと考える」とのだけ述べて結論を覆している。
「重大な義務違反」があり,回避できる可能性は「相当高い」とまでしながら,回避できたと「断定することまではできない」として国の責任を否定したのである。最高裁は医療過誤訴訟において因果関係の証明度は「高度の蓋然性」とし(最判平成11年2月25日),高度の蓋然性が認められない事案においても,「相当程度の可能性」の存在の証明でもその可能性の侵害について損害賠償を認めているにも関わらず(最判平成12年9月22日等),仙台高判は「断定」まで要求したのである。
この仙台高判は,極めて異様であることから最高裁で是正されると思われたが,第三小法廷は「上告不受理」とした。せめて受理して最高裁としての判断を判決として明示することが職責だと思われるが,最高裁には「上告不受理作戦」という強力な武器がある。国の上告は受理しても,住民の上告は受理しない。別の分野の訴訟とはなるが,説明義務違反を問う事実誤認レベルの事案でも,特に消費者・投資家を勝訴させた高裁判決については,なぜか受理をする傾向があるように思われる(消費者・投資家の上告は不受理となる)。仙台高判は「絶対」「断定」まで証明度を要求するという無理難題を持ち出し,重大な義務違反であり,事故を回避する可能性が相当高いとまで言いながら避難者を敗訴させた。この証明度について受理して判断をすることは法律審の職責と思われるが,不受理とした。行政法の権威である宇賀克也裁判官はさすがに耐えきれなかったと思い反対意見を付している。そのことだけでも受理理由があるのではないか。最高裁判事が1名でも受理すべき,とした場合は結論はともかく受理して判断を国民に示すべきである。上告不受理は,最高裁の思考過程がブラックスボックスになるところが何よりも残念である。それとも,このような仙台高裁判決でも不受理になるということを知らしめたかったのであろうか。
そして,今回の第一小法廷の上告不受理決定である。せめて6.17最判では判断が示されていなかった「貞観津波」による予見可能性や結果回避可能性ないし因果関係については受理して判断を示すべきではなかったか。
結局,最高裁が判決として示した判断は令和4年6月17日判決だけとなる。これで幕引きができると思っているのであろうか。判決は説得力が命であり,誰が読んでも説得力の欠ける6.17最判には誰も納得ができない。ますます炎は燃えさかるはずである。
もちろん,6.17最判もあくまで,「本件の事実関係の下においては」という前提がある。新たな主張立証や,射程外の責任原因については異なる判断がなされる可能性は秘めている。
6.17最判は東電平成20年試算を前提に,対策工も同試算に対するものとなるとしている。しかし,この試算はパラメータスタディが足らず,対策工段階ではより精緻なパラメータスタディがなされることにより,より高い試算がなされるはずである。あえて言えば,この試算でもなるべく過小な数字が出るように努力がなされたものである可能性がある(走向も位置もMWも)。この試算自体を鵜呑みにするのではなく検証する必要がある。
そして,東電平成20年試算を前提とした対策工である東電平成28年7月22日作成の「2008年試計算結果に基づく確認の結果について」が最高裁の「南東主眼防潮堤」の産みの親である。この東電平成28年試算に上手いこと騙されているのであり,この資料を作出した関係者は大変な知恵者であろう。この怪しさ満点の東電平成28年試算についてもその作成過程も含めて検証をする必要がある(刑事弁護事件ではそのような作業を行うはずである)。
南側主眼防潮堤が存しただけでも敷地南側の浸水は軽減される。3.11でも共用プール建屋1階の空冷式DGは機能維持をしていたのである。MCが生き残っていれば事故後手配された高圧電源車とあわせて電源復旧ができたのではないか。「東から大きな津波がきたからダメだった」というのはあまりにもアバウトすぎるのである。
【参照】・東電津波試算の怪その18 怪しげな平成28年試算でも事故は防げた?
規制権限が行使された場合に東電が設置する防潮堤は,技術基準に適合する防潮堤となる。6.17最判では,規制権限を行使すると,一足飛びに,南東主眼防潮堤となるが,「技術基準に適合する」という中間項が抜け落ちている。あくまで「技術基準に適合する」「南東主眼防潮堤」が設置されるのである。では,東電平成28年試算の防潮堤は技術基準に適合するのであろうか。国は回答しない。
4メートル盤上には重要設備である海水ポンプがある。この海水ポンプが津波に無防備で浸水してしまう東電平成28年試算の防潮堤で技術基準に適合するのかを国に回答させる必要がある。
そして4メートル盤上の重要設備である海水ポンプをドライサイトコンセプトで防潮堤で守るというのが6.17最判である。どのような防潮堤を設置するのか,どのような姿の防潮堤があれば技術基準に適合するのか,その有り姿を明らかにさせた上で,その防潮堤で3.11が防ぐことができたかを議論するのが正しい判断過程である。
仮に「あるべき防潮堤」が確定した場合には,いつ規制権限が行使され,「あるべき防潮堤」がいつ技術基準に適合した形で完成するのかも明らかにされないとならない。6.17最判には時期について言及がない。東電経営陣に対する令和7年3月5日最高裁刑事決定における草野裁判官の補足意見にあるように,原発は1年8か月ごとに定期点検で停止する。技術基準に適合しないまま定期点検を終えて再稼働することはあり得ない。防潮堤対策工事の過程で1号機ないし3号機は定期点検を迎えて停止をするのであるから,その後は防潮堤が完成して技術基準適合確認がなされるまで(さらには地元了解が得られるまで),再稼働はしない。3.11を停止した状態で迎えた蓋然性が高い。防潮堤の完成いよる再稼働の立証責任は国にある。
【参照】
その他にも,
■1号機タービン建屋大物搬入口の防護扉が開けっ放しであったこと
(その結果,1階MCや地下1階DCが浸水した)
【参照】東京電力株式会社福島第一原子力発電所の事故時運転操作手順書について
■事故時運転操作手順書の「自然災害編」が遵守されていないこと
■平成22年6月17日の2号機での外部電源喪失事故の水平展開
■平成22年6月14日の1号機における非常用復水器の圧力高設定値変更の認可
■HPCIがスクラム直後に作動していないこと
【参照】
・3.11東海第二原発では津波襲来前ECCSによる冷却がなされていたこと
■原子力保安検査官は事故時どこでなにをしていたのか
■B5bの保安院による隠匿
【参照】原子力市民委員会HP「想定を超えた災害だったので国に監督責任はない?-B.5.b問題から福島第一原発事故をとらえなおす」長谷川公一名誉教授
■貞観津波の情報が福島県知事まで上げられなかったこと
【参照】平成27年10月26日北國新聞
などまだまだ未解明の点がある。
上告不受理決定は,最高裁としての判断を何ら示したものではない。避難者側も新たな主張立証も加味しながら,全国各地で係属している訴訟で引き続き闘うこととなる。原発集団訴訟はまだ終わらない。